2017/08/09

名門ホテルまで「マンデラ」商売 ケープタウンのマウントネルソン

ケープタウンの名門ホテル「ベルモンド・マウントネルソン・ホテル」(Belmond Mount Nelson Hotel)がネルソン・マンデラの回顧録 Dare Not Linger:The Presidential Years 発売を記念したパッケージを売り出す。

マンデラの回顧録といえば、自伝『自由への長い道』(Long Walk to Freedom)が有名。1994年に発行され、これまでに1500万部売れたという。

Dare Not Linger は『自由への長い道』の続編にあたり、大統領時代の1994年から1999年までを扱っている。

マンデラは2013年に既に亡くなっているのに、なぜ今ごろ回想録を…?

実は、マンデラ本人が書いたのは10章のみ。マンデラが亡くなった後、小説家のマンドラ・ランガ(Mandla Langa)が様々な資料を基にして加筆し、完成させたもの。発売後すぐに回収された医師の暴露本 Mandela's Last Years とは違って、マンデラ家やマンデラ財団のお墨付き。グラサ・マシェル未亡人が序文を寄せ、マンデラ財団の全面協力の元に執筆された。既に8か国語の翻訳権が売れているとのこと。

マンドラ・ランガ

発売記念パッケージのお値段は1万2千ランド(今の為替レートで約10万円)。含まれるのは宿泊代2泊(2人でシェア)、マンドラ・ランガが完成させた回想録1部、それに、マンデラが好きだった料理にヒントを得た3コースディナー。ディナーのメニューは、オックステールスープ、チキンカレー、サモサ、ロティ。インド料理が中心だ。確かにマンデラはインド料理が好きだった。でも、一番好きだったのは、コサ族の家庭料理だったはずだけど。。。マンデラが「1度か2度食事をした部屋の隣のレストラン」で食べるという。

マンデラが好きだった料理にヒントを得たディナーを、マンデラが食事したことのある部屋の隣のレストランで食べる…? その程度しかできないってことは、マウントネルソンとネルソン・マンデラの関係は深くないってこと?

更に、1250ランド(約1万円)の追加料金を払えば、マンデラの看守だったクリスト・ブランド(Christo Brand)さんがケープタウンの中心街を2時間ほど徒歩で案内してくれる(!?!)。題して「Footsteps to Freedom」(自由への足取り)。なんだかなあ・・・。

クリスト・ブランドさんは、マンデラと親友になった看守と嘘をついて書いた本がベストセラーになり、ハリウッドに映画化までされてしまったジェイムズ・グレゴリー(James Gregory)とは違って、本当にマンデラの友だちになった看守。マンデラとの思い出を綴った本 Doing Life with Mandela: My President, My Friend を出している。(南ア以外では Mandela: My President, My Friend。グレゴリーについては「マンデラをカモにした男 ジェイムズ・グレゴリー」をご覧ください。)



ブランドさんは引退後、ロベン島のお土産店で働いている。今年3月、出版社の人とロベン島に行ったとき、フェリー乗り場でばったり出会った。「招待されて今年10月に日本に行くことになっている。それまでに僕の本を翻訳して出してよ」(無理無理!)とか言ってたっけ。

マディバとクリスト・ブランドさん

マウントネルソンは、南アフリカで初めてお湯と水が水道から出るホテルとして、1899年にオープンした老舗中の老舗だ。当時、「ロンドンの高級ホテルより良い」と絶賛された。

マウントネルソンの入り口

名前の由来は1806年に遡る。この年にこの土地が競売にかけられた際、不動産業者がつけた売り出し名だった。「マウント」は山。テーブルマウンテンの麓に位置することによる。また、「ネルソン」は、前年トラファルガーの海戦で戦死したイギリス最大の英雄、ホレーショ・ネルソン(Horatio Nelson)提督に因む。

私が初めて泊ったのは1992年か93年ごろ。アパルトヘイト政権末期で、ケープタウンはまだ国際観光地となっておらず、名門ホテルといえども顧客確保に苦労していたのか、たまたまスペシャル価格で泊れた。1泊500ランドくらいだったように記憶している。

古めかしい図書室になっているエレベーターが素敵だと思った。どの職員もゲスト全員の名前を覚えるよう訓練されており、すれ違うと、名前を使って挨拶された。(「ミス・オサダ、おはようございます」)

テーブルマウンテンの麓に、ケープタウンにしては広大な敷地を誇る

そんな名門ホテルが、一体またどうして、こじつけのようなマンデラパッケージを売り出しているのだろうか。新しい高級ホテルが数多く建設されたケープタウンで生き残るために、差別化を図る必要があるのだろうか。

大体、こんな商品、マンデラ家やマンデラ財団の同意なしに売り出していいのだろうか?

ホテルの広報マネージャー、ガブリエル・パーマー(Gabrielle Palmer)によれは、同意は必要ないという。「マンデラは国の宝」(Mandela is a national treasure)だから、というのがその理由。

「今までに公表されていないことを暴露しているわけではないし、回想録は既にネットで宣伝されている。」「あの医者とは違う。マンデラ家のプライバシーを侵害していない。」

マンデラ家のメンバーから、「名前使用料を払え」とクレームがつきそうな気がするが・・・。

いずれにせよ、 マンドラ・ランガによるマンデラ回想録の発売は2017年10月19日。「発売記念」パッケージが利用できるのはそれ以降のことだろう。


【参考資料】
"'Madiba treats' add spice to memory menu" Sunday Times (2017年7月30日)
"Novelist finishes next leg of long walk Madiba began" Sunday Times (2017年7月30日) など

【関連ウェブサイト】
Belmont Mount Nelson Hotel

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