2010/10/24

大統領夫人の浮気 ジンバブエ

スワジランド王妃の浮気(2010年8月16日付「王妃と大臣の不倫 スワジランド」参照)に続き、ジンバブエ大統領夫人の浮気が明るみに出た。またか、という感がなきにしもあらずだが、インパクトはかなり違う。

一方は、南部アフリカ以外で殆ど話題にのぼることのない貧しい小国スワジランドの、数多い国王夫人のひとり。他方は、1980年まで少数白人支配を続けたローデシア(現ジンバブエ)の解放闘争の英雄で、欧米のメディアにしばしば登場するロバート・ムガベの唯一の妻グレース。独立当時は比較的良政を行ったと評価されたムガベがトチ狂ってしまったのは、41歳年下の愛妻のせい、と噂される派手好きな美女だ。

しかも、「サンデータイムズ」紙の一面トップを飾った記事を書いたのは、世界的に有名なジャーナリスト、ジョン・スウェイン(Jon Swain)。ベトナム戦争、サイゴン陥落からザイールのモブツ政権崩壊、東チモールの独立まで、世界中の紛争を長年カバーしてきた。近年は、英諜報部MI6と密接な関係にあると言われている。

グレースの浮気が取りざたされたのは、これが初めてではない。浮気相手のひとり、ピーター・パミレ(Peter Pamire)はミステリアスな自動車事故で死亡。別のひとり、ジェームズ・マカンバ(James Makamba)はジンバブエ有数の富豪で与党幹部だったが、大統領夫人との浮気がばれて命からがら逃げ出した。

今回の相手は格が違った。ムガベの信頼が厚い準備銀行の総裁、ギデオン・ゴノ(Gideon Gono)。私財の管理まで任せてる友人だ。ふたりの関係は2005年に始まり、ムガベ死後には結婚を考えているといわれる。

ムガベとグレースの関係自体、不倫から始まったものだ。当時、ムガベの糟糠の妻で国民から敬愛されていたサリーは、腎臓病で苦しんでいた。グレースは大統領府のタイピストのひとりで、空軍の軍人と結婚していた。サリーの死後、1996年にふたりは結婚。既に、2人の子供をもうけていた。ジンバブエ国民の間で、グレースの評判はすこぶる悪い。

知る人ぞ知るグレースとゴノの関係をムガベに告げたのは、死の床にあったムガベの妹サビナ。今年の7月26日、午後6時と7時の間とされる。8月末、ムガベは最も信頼するボディガード、ケイン・チャデマナ(Cain Chademana)を問い詰めた。浮気の事実を知っていたことを認めたチャデマナは、数日後不審死を遂げる。

元々安い給料に不満だった諜報機関職員たちは、チャデマナの死にショックを受け、ジョン・スウェインのようなジャーナリストに重い口を開き始めた。

88歳のムガベはジレンマの真っただ中にいる。妻を寝とった親友ゴノは、ジンバブエ経済が崩壊した際、準備銀行総裁として何とかやりくりしてムガベ政権を支えてくれた恩人である。その上、国庫から盗んで世界中に隠されているという、ムガベ一家の莫大な私財の管理を一手に引き受けている。ムガベに取り入って私腹を肥やした、軍や党の幹部の中にも、ゴノに私財管理を任せている者が多い。これまでのように簡単に、不審死を迎えさせたり、国外に追放したりするには、リスクが大きすぎる。

悪妻のホマレが高いグレースだが、ムガベにとってはかけがえのない愛妻。若い妻(47)と親友(50)の不倫に目をツブルのが最善の策だっただろうが、表面化してしまった以上、何もしないのは独裁者のコケンにかかわる。今のところ、ムガベの報道官もゴノの報道官も沈黙を守ったままである。

(参考資料:2010年10月24日付「Sunday Times」など)

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