2017/11/28

トランプ大統領誕生までを振り返る(1)ドナルド・トランプの壁

ドナルド・トランプが第45代アメリカ合衆国大統領に選出されてから、もう1年経ってしまった。これまでそれほどアメリカの政治に関心がなかった私も、2016年前半からユーチューブに釘付けになっている。(テレビがないのでニュース映像はユーチューブで見ている。)

 この機会に、2016年8月から2017年2月まで、別ブログに書いたトランプ関連記事を振り返ることにする。

まずは2016年8月7日の記事『ドナルド・トランプの壁』。共和党大統領候補トランプの公約のうち、一番有名なものだったが、大統領になってからいつの間にか立ち消えになってしまった。

この時点では、大金持ちの家に生まれ、詐欺同然の手口を用いて私腹を肥やすことにそれまでの人生を費やし、多くのビジネスで失敗し、世界政治経済にうとく、集中力が3分もなく、発言の大部分が嘘であり、人種差別やセクシャルハラスメントを平気で行う、ナルシストで傲慢なトランプを大統領候補に選んだ共和党員にあきれていた。もっとちゃんとした候補者が複数いたのに。。。

「トランプ=成功」「大富豪の凄腕ビジネスマン」というイメージがリアリティTVで浸透していた。テレビが作り出したイメージを本当の姿と信じる多くの米国民。「バカじゃないの」と思う一方で、デマゴーグに簡単に扇動される民衆が空恐ろしかった。

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不法移民の入国を阻止するために、アメリカ・メキシコの国境に防壁を築く」と息巻いていたドナルド・トランプ(Donald Trump)が、米共和党の大統領候補に指名されてしまった。共和党の党大会での指名受諾演説でも、「壁を築く」ときっぱり。

トランプは「建設費用はメキシコに負担させる」と断言するが、メキシコ政府は「絶対払わない」。

メキシコに無理やり払わせる妙案でもあるのか。メキシコが払わないとしたら、誰が負担するのか。そもそも、3200キロにわたる国境に壁を建設するのに、一体いくらかかるのか。

Economist.com

バーンスタイン・リサーチ(Bernstein Research)の最新レポートによると、リオ・グランデ川など天然の国境のおかげで、壁を建設する必要があるのは国境の約半分。そこに高さ12メートルの壁を築くには、7億1100万ドル相当のコンクリートと2億4000万ドル相当のセメントが必要。工賃を含めると、150億ドルから250億ドルの費用がかかるという。

2017/11/25

ロバート・ムガベの興隆と没落 ジンバブエ

生きているうちにこの日が来るとは思わなかった。」

ロバート・ムガベ大統領(93歳)の辞任を聞いて、多くのジンバブエ人がこう語った。なにしろ、1980年の独立以来、37年も政権の座に居座っていたのだから。37歳以下のジンバブエ人はムガベ以外の国家元首を知らない。

ロバート・ムガベ(Robert Mugabe)は1924年2月21日、英植民地・南ローデシア(現ジンバブエ)の貧しい家庭に生まれた。6人兄弟の3番目。父親は大工。敬虔なカトリック教徒だった母親は、村の子供たちにキリスト教の教義を教えていた。

ムガベ一家が住んでいたクタマ(Kutama)村は、イエスズ会が設立した布教村。イエスズ会の教えに従い、ムガベは子供のときから厳しい自己鍛錬を積み、自制心が強い人間に育った。

田舎の子供なら誰もがそうしたように、牛追いが日課だった。牛追いをしながら本を読む、勉強好きの子供だった。

(因みに、南アフリカのジェイコブ・ズマ大統領も子供時代、牛追いをしたが、そのまま学校教育をまったく受けずに成人し、読み書きを習ったのはロベン島で服役中のことだった。今でも原稿を読むのがたどたどしい。自力で演説原稿が書けるとはとても思えない。)

勉強はよくできたものの、スポーツをしたり、他の子供と遊んだりするより、ひとりで本を読むことを好んだ。同級生たちからは「お母さんっ子」「腰抜け」とからかわれた。

1934年、長兄が下痢で亡くなり、次兄も毒入りトウモロコシを食べて死亡。同じ年、父親が大きな町ブルワヨへ。仕事を探すためだったが、そこで別の女性と知り合い、クタマ村の家族は捨てられてしまう。ロバートは若干10歳にして、ムガベ家の家長となった

2017/11/20

トランプ、アフリカにも悪影響 野生動物保護の危機

アフリカにはあまり影響がないと思われていたトランプ政権だが、11月15日(水)大変迷惑な発表を行った。「アフリカでの狩猟を促進する」というのである。

その理由は、アメリカ人ハンターがアフリカに出向き、絶滅危惧種を含む大型動物を殺すために大金を払うことで、地元のコミュニティが経済的に潤い、動物保護資金が増える。つまり、これまで欧米のハンティング愛好者が主張してきた「野生動物を殺すことが野生動物の保護につながる」という変な理屈の受け売りである。

その一環として、ジンバブエとザンビアで「合法的」に狩猟したゾウの牙をアメリカに輸入することを許可した。(絶滅危惧種を「合法的」に殺せるアフリカ諸国の政策は絶対おかしいと思う。しかし、大統領が率先して狩猟全面禁止に踏み切ったボツワナ以外の国では、政治家や役人の多くが欧米ハンターやロビー団体がもたらす大金に目が眩んでしまっている。)

トランプの息子、ドナルド・ジュニアとエリックは狩猟が大好き。アフリカに来ては野生動物を殺している。

長男のドナルド・ジュニアはこんな写真をソーシャルメディアにアップしている。

ゾウは絶滅危惧種

殺したゾウの尻尾をナイフで切り取ったもの。

生まれてから何一つ不自由なく生きてきたお金持ちのボンボンが、完璧に安全な環境の中、何百万円も払って払ってゾウを射殺し、その尻尾をナイフで切り取り、自慢げにソーシャルメディアにアップしている。そんなこと、なんの自慢にもならないことに全然気がついていない。

2017/11/16

「立派な国ランキング」発表。世界に最も貢献している国は?

6月23日、「Good Country Index」が発表された。この指標における「グッド・カントリー」の定義は、自国の枠を超え、より良い世界を築くために貢献している国。いわば、「立派な国ランキング」である。

調査を行ったのは、過去20年間に世界中の大統領や首相計53人にアドバイスしてきたというサイモン・アンホルト(Simon Anholt)。プロの政策アドバイザーだ。

サイモン・アンホルト(Wikipedea

人々が最も称賛するのは、立派な国というイメージだということに気がついた。経済力があるとか、美しいとか、強大であるとか、近代的とかいうことより、ずっと大切なのだ。そこで、人類に最も貢献していると思われているのはどの国か、そしてどの国が実際に立派なのかを知りたいと思った。」

アンホルト氏は世界125か国を以下の7つのカテゴリー別に貢献度の点数をつけ、それに基づいて総合ランキングを決定した。

科学技術(Science and Techonology)
文化(Culture)
世界平和・安全(International Peace and Security)
世界秩序(World Order)
地球・気候(Planet and Climate)
繁栄・平等(Prosperity and Equality)
健康・福祉(Health and Wellbeing)

各カテゴリーの点数は、5つのデータの総合点。例えば「世界秩序」カテゴリーには、開発援助の金額や国連条約の批准・署名数などのデータが含まれる。世界への貢献度しか考慮されないので、いくらGDPが大きくても、いくら自国民の福利厚生が整っていても、点数に加算されない。

勿論、「立派」という言葉そのものが主観的。カテゴリーの分け方や、データの選び方や、計算の仕方などに批判は沢山ある。また、入手できるデータにも限りがある。これが完全とか絶対とか断言できる「立派な国リスト」作成は不可能だ。それでも、敢えてランキングを作成し公表したのは、普通の人々に自分の国が「立派」かどうか考えて欲しいから。

2017/11/11

南アフリカの公的医療 悲惨な現実(3)お父さんの死

10月16日朝4時、エミリア(お母さん)から電話。アケ(お父さん)が亡くなった。たった今、病院から連絡が入ったという。10月9日の夕方に入院してから、6日半後の死だった。その間、検査も診断もされず、医師にも看護婦にもスタッフにも冷たく扱われた。午後1時間、夜1時間の面会時間以外は、家族も会わせてもらえない。十分な看護ができなかった悔いが残る。

家族には検死を要求する権利がある。お腹の腫瘍は何だったのか。死因は何だったのか。医師による検査や診断がなかっただけに、知りたい。もちろん死因がわかったところで、亡くなった事実が変わるわけではないが、たとえば「腫瘍を調べたところ、末期の大腸がんだった」とはっきり言われれば、「そうだったのか」と納得でき、精神的な幕引きができる。

しかし、悲嘆に暮れるエミリアは「検死しなくていい。遺体の確認にも行きたくない。葬式もしない。火葬した灰だけ受け取ればよい」。未亡人の意思を尊重し、息子たちも検死を主張しないことにした。医師が記した死亡原因は「自然死」。

それにしても、ひどい国立病院。そういえば、アケが前回入院したときは私立病院だった。(病院嫌いなので、風邪をこじらせ肺炎になってから漸く病院に行き、即入院だった。)今回はなぜ国立病院に・・・? 実は、数年前、メディカルエイド(企業が提供する保険)を解約したというのだ。

元気なころのアケ

南アフリカは日本と違い国の健康保険制度がない。公的医療機関の料金は、収入や扶養家族の人数によって決まる。一番高い料金でも私立病院よりかなり安い上、1日に払う額に上限がある。収入がとても少なければ無料だ。妊婦、6歳以下の子供、社会保障を受けている人も無料である。

制度的には、全然悪く聞こえない。

問題は中身である。国民の大多数が公的医療のお世話になっているから、とても混んでいる。医師や看護婦の数が不足している。働きすぎの医師たちは疲れ切り、看護婦やスタッフの質は悪化する一方だ。適切な治療を受けていれば元気に退院できた人が、公的医療機関に行ったばかりに命を落とす例が後を絶たない。

2017/11/04

南アフリカの公的医療 悲惨な現実(2)タンボ記念病院

アケ(お父さん)が国立総合病院「タンボ記念病院」に入院した。タンボ記念病院はジョハネスバーグから東へ30キロ。ボックスバーグという町にある。

今までの経過をまとめると、

10月9日(月) 
しばらく下痢が続いたので病院に行く。この時点では普通に会話をしており、車の運転もできた。一日中待って、やっと触診。「腹部にしこりがあり、悪性腫瘍かもしれない。検査のため即入院」と言われる。

10月10日(火)
エミリア(お母さん)が朝病院に行ったところ、アケは冬並みに寒い病棟で、石のように冷たくなっていた。上半身は昨日来ていた服。下半身はズボンもパンツも脱がされ、オシメだけつけて、あとは裸。枕も毛布も上布団もなし。「寒い、寒い」と繰り返す他は、言葉もでないほど衰弱している。自力で水を飲むことも食べ物を食べることもできない。点滴を頼む。「面会時間は午後3時から4時と、午後7時から8時のみだけ」と言われる。夕方、エミリアとペッカ(息子)が上布団など持ってまた病院へ。アケはすでに意識が朦朧(もうろう)としている。点滴がされていないので、重ねてお願いする。明日、しこりの検査をすると言われる。

10月11日(水)
検査なし。点滴もなし。水分と栄養分の補給を懇願する。

10月12日(木)
朝電話したところ「退院した」と言われる。面会時間に行ってみたら、外科病棟に移されていた。点滴、酸素吸入が施される。元々やせ型だったのが、下痢のためやせ細っていた82歳の老人に、公的医療機関が3日以上、水分も栄養分も与えなかったことになる。「明日、手術」と言われる。何の手術か説明なし。

10月13日(金)
手術なし。

10月14日(土)
早朝待ち構えて、初めて医師と話す。担当医ではなく、その日の巡回医。「私たちには何もできないから家に連れて帰りなさい」と突き放される。

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車や掃除機が故障したのなら、修理工が言うことに余裕をもって反論もできる。しかし、こと医療に関しては医者の独壇場だ。元々権威を敬う傾向にある日本人やアフリカの人たちは、概ね医者にすべてを委ねがちである。医者を信じ、医者に言われるままに治療を進める。それに、医学・医療は高度に専門化しているから、「それは違うんじゃないの」とは言いにくいし、一般人には反論する知識もない。

医者に「家に連れて帰りなさい」と指示されたら、殆どのアフリカ人は黙って言われるままにするだろう。特に、田舎の人や古い世代や教育程度の低い人は、都会の教養人よりずっと権威を敬う傾向にあるので尚更だ。

しかし、家に連れて帰ってどうすればよいのだろう? 検査も診断もされていないのに、どんな看護をすればよいのだろう? しかも医者は退院にあたって、「医師の判断に賛成します」という書類にサインを求める。検査も診断もないのに、「判断に賛成」はできない。