2010/12/28

内閣の通信簿 「メール&ガーディアン」紙

「メール&ガーディアン」紙の年末恒例「内閣通信簿」(Cabinet report cards)が今年も発表された。大統領と大臣がこの一年どれほどよくやったか、またはやらなかったを評価するもの。

成績はAからGの7段階。

A…優。頭が下がる。
B…良。改善の余地あり。
C…可。
D…しっかりしろ。
E…自分と国のために辞職せよ。
F…もうクビだ。
G…さようなら。

それぞれに詳しいコメントがつく。

今回「採点」の対象になったのは、大統領1人、副大統領1人、大臣33人の計35名。以前は副大臣も採点されていたが、今回はなし。大臣の数が大幅に増えて紙面が足らなくなったのか、副大臣は影が薄すぎて評価の意味がないためか。

1994年、新政権が誕生した当時は、解放運動の指導者、英雄たちが内閣に名前を連ねていた。ところが次第に、よほどの政治通でない限り聞いたことのない名前が増えてくる。南アフリカの選挙は完全比例代表制。つまり政治家にとって「地元」は存在せず、党内部での力関係、人間関係が全てなのだ。また、大臣職、副大臣職は政治家の椅子取り合戦だから、適材適所の配慮はごく一部に限られる。

ジェイコブ・ズマ(Jacob Zuma)大統領の成績は「D」。女性問題にだらしがないという評判(?)を裏切らない、一年の出だしだった。サッカー界の大物アービン・コザ(Irvin Khoza)の娘が、大統領の子供を出産したのである。ズマには正妻が3人、離婚した妻1人、自殺した妻1人、それに婚約者までいる。友人が愛娘に子供を産ませたことで、コザはカンカンだと報道された。尤もズマが強姦容疑で起訴された際、被害者は解放運動の同士の娘だったから、「友人の娘」というのはズマにとって「手をつけて構わない範囲」なのだろう。

サッカーワールドカップという大仕事はツツガナク済ませたものの、国内では相次ぐ停電、基本的社会サービス供給の遅れに対する激しいデモ、公務員の史上最悪ストやその他各業界でのスト・・・と、責任を問われる大統領にとってあまり楽しくないことが続く。そのせいか、ズマはこれまで大して関心のなかった外国公式訪問に急に意欲を燃やした。中国、ブラジル、イギリス、フランス、スエーデン、メキシコ、エジプト、リピア、ベルギーなどなど。一度に連れて来るのは一人とは言え、ファーストレディが何人もいるのは、迎える国にとってさぞかし混乱することだろう。

ハレマ・モトランテ(Kgalema Motlanthe)副大統領は「B」。アメリカでもそうだが、副大統領というのはわかりにくい職だし、モトランテ自身、目立たないことを信条としているから、彼の評価は難しい。ただ、どう見ても無能だったり、汚職にまみれていたりする政治家が多い中、注目の集まりやすい職について話題に上らないというのは、それなりにちゃんとしているのだろう。

33人の大臣中、「A」がついたのはプラヴィン・ゴーダン(Pravin Gordhan)財務相とアーロン・モツォアレディ(Aaron Motsoaledi)保健相の2人だけ。以下、B4人、C10人、D7人、E2人と続く。「クビ」を宣告されたのは、公共サービスを担当するリチャード・バロイ(Richard Baloyi)と、地方政府・伝統的指導者を担当するシケロ・シケカ(Sicelo Shiceka)の2人。

珍しく、Gをもらった閣僚はゼロ。しかし、まだ就任したばかりで評価を控えた大臣が8人もいるから、来年に期待できるかも。

国民には顔の見えない政治家が増える中、「メール&ガーディアン」紙による「内閣通信簿」は「政治家のおさらい」として今後も注目したい。

「通信簿」はこちらで。
Cabinet report cards 2010: Reshuffling the deckchairs」2010年12月23日付「Mail & Guardian」

2010/12/23

ゲイカップルの子作り作戦 代理母にお願い

国民の大多数の人権を無視したアパルトヘイト。そんな歴史を持つ南アフリカの法律は、マイノリティや弱者の保護に手厚い。

例えば、同性愛者の権利。ゲイカップルには異性間夫婦と同じ権利が保証されている。また社会的にも、特に都会の白人社会では偏見があまりなく、ゲイであることをオープンにしている人が多い。

ただ、法律が整っていても、社会的に受け入れられていても、悩みはある。ゲイカップルの多くにとって頭が痛いのがふたりの子供を持つこと。愛する人と家庭を築きたいのはやまやまだが、オス同士、メス同士では生物学的に不可能だからだ。

一般的な解決策は二通り。ひとつは養子を貰うこと。もうひとつは、カップルのうち、ひとりの卵子または精子を使うこと。女性の場合は精子銀行を利用したり、家族・友人に精子を提供してもらい自分で子供を産むことが可能だ。

友人のレズビアンカップルはこの手を使って、ふたりがひとりずつ子供を産んだ。精子の提供者は人種が違う男性ふたり。つまり、母親ふたり、父親なし、肌の色が違い、血がつながっていない子供2人という家族構成になる。

「ゲイは社会風紀・秩序を乱す!」と目くじらを立てる人々などは、「家族」とも認めないかもしれない。しかし、親がそれを当然のように自然に振舞っているし、また、家族・親類、友人、近所の人、学校の先生、クラスメート、クラスメートの親など、この家族を取り巻く人々が皆、ごく普通の家族として受け止め、受け入れているから、子供たち自身も屈託がなく、伸び伸び育っている。

男性カップルの場合はもっと面倒だ。まず、赤ちゃんを産んでくれる女性を見つけないといけない。その女性の子供として産んでもらい、出産後、養子手続きをする。代理母は探しは大抵、専門業者を使う。料金は5万ランド(60万円)程度。

ところが、2005年に子供法(Children's Act)が改正、今年4月に施行された。その38条19項は、代理母になることで収入を得ることを禁じている。

妊娠・出産は女性にとって大仕事である。重い悪阻、妊娠中毒症、難産などの可能性に加えて、産後の肥立ちが悪いとか、体の線が崩れるという心配もある。コミットする期間も長い。妊娠期間9か月半、その前の人工授精から考えると、場合によっては1年を超える。良いお金になるならまだしも、喜んでしかも無料で、他人の子供をお腹にかかえてくれる女性はザラにはいない。よっぽど妊娠好きか奇特な人であろう。

子供を切に欲しがるカップルから巨額の料金をむしりとる悪徳業者をなくすことが主眼だろうが、お蔭で代理母になってくれる人を見つけるのがむずかしくなった。

新しい子供法にはその他、代理母に関する次のような規定がある。
  • 代理母には生存する自分自身の子供が最低ひとりいないといけない。
  • 代理母が結婚している場合は夫の同意書が必要。
  • 依頼するカップルには、ふたりとも出産することができず、その状態は恒久的であり、戻すことができないという医学的理由が必要。
  • 依頼カップル両方の生殖体を用いる。妥当な生物学的または医学的理由がある場合は、ひとりの生殖体でも構わない。
  • 関係者全員が合意書に署名し、裁判所がそれを認可しなければならない。
  • 胎芽が母体に移される以前に、裁判所が代理母に対して、親としての権利・義務を放棄するよう命令を出さなければならない。
  • 代理母は出産時に子供を引き渡す。子供は生まれた瞬間から依頼カップルの子供となり、養子手続きは不要。
  • 代理母及び依頼カップルの少なくともひとりは南ア国籍。
ジョハネスバーグ在住の某男性カップルはラッキーにも代理母を見つけることができ、この度、高等裁判所で代理母契約の認可を受けた。卵子は精子を提供しないパートナーの姉妹から提供してもらうため、遺伝的には双方の血を引いている。

子供を持とうと決めてから、代理母と契約を交わすまでに7年かかったという。同じことをまた繰り返すのは大変なので、三つ子が欲しいとのこと。代理母には妊娠中、「脳の働きを高める」モーツァルトを聞いてもらう予定。既にそのためのiPodを用意しているとか。

(参考資料:2010年12月22日付「The Star」など)

2010/12/16

美人コンテストでブスが入賞 「ミセス・インド・南アフリカ」の大番狂わせ

今年の「ミセス・インド・南アフリカ」(Mrs India South Africa)で大きな番狂わせがあった。どこにでもいる普通の太めのおばさんが、第3位のセカンド・プリンセスに選ばれたのだ。

喜びで胸が一杯になったミーナ・ラムラカン(Meena Ramlakan)さん(42)の頬に、滝のような涙が流れる。大騒ぎの観衆に手と腰を振りながら、ステージに上がったミーナさんを花火と大拍手が迎える。

首にはセカンド・プリンセスのタスキ。頭には王冠。手にはトロフィー。

3000ランド(3万6000円)はたいて買ったサリーは無駄ではなかった。ジョハネスバーグからダーバンまで約600キロ運転し、宿泊代に8000ランド(9万6000円)も使ったけど、無駄ではなかった!

一方、観衆の中には「話が違う」と感じた人もいたに違いない。

確かに、主催者のHPにはこう書いてある。

「ミセス・インド・南アフリカに参加するには、プロのモデルや美人コンテストの優勝者である必要はありません。話をするのがうまく、頭が良く、前向きで、他の人にとってインスピレーションとなりさえすれば良いのです。」

(「会話上手で、且つ頭が良くて、且つ前向きで、且つ他人にインスピレーションを与える」女性が「美人コンテストの優勝者」より劣ったものという価値観がチラついて可笑しいが、それはさて置く。女性を見かけで評価することの是非に関する議論もあるが、それもここでは置いておく。)

「インド系南ア人の既婚者」という限定つきとは言え、一応「美人コンテスト」なのである。HPの掲載写真を見ても、「ミス・ワールド」や「ミス・ユニバース」より年長で太目で洗練されていないのは当然のことながらも、「きれいな奥さん」と近所で評判になる程度の女性ばかりである。

「Mrs India SA」のHPより

優勝は出来なくても2位か3位には・・・とひそかに王冠に目をつけていたそれなりの「美女」は愕然としたことだろう。

残念ながら、ミーナさんの喜びは長く続かなかった。翌日、プリンセスの地位をはく奪されてしまったのである。ジョアニー・レディ(Joanie Reddy)さんの得点が、間違ってミーナさんに加算されていたというのだ。タスキ、王冠、トロフィーはすべてジョアニーさんに渡された。

そればかりではない。フォトショップを使って、コンテストの写真からミーナさんは消されてしまった。ビデオも再編集され、ミーナさんはカットされる。傷に塩を塗りこむとは、まさにこのことである。

主催者は「ミーナさんの名前が呼ばれた時、皆ショックを受けた。最下位か下から2番目だったミーナさんが、セカンド・プリンセスになれるはずがない」、とケンもホロロ。

ミーナさんにとっては、まさに天国から地獄へ真っ逆さま。インド系南ア人100万人の中で、大恥をかいてしまったのである。落ち込みのあまり、食べることも寝ることもできないという。屈辱の涙が滝のように頬を流れるのだった。

(参考資料:2010年12月16日付「The Star」など)

2010/12/09

アンダマン諸島 ベンガル湾の楽園

アンダマン・ニコバル諸島(Andaman and Nicobar Islands)はベンガル湾に浮かぶインドの連邦直轄地域。インド本国よりタイに近い。

アンダマン諸島は大小302個の島々、その南のニコバル諸島は19の島からなる。ほとんどが無人島。全く文明から遮断された島もある。北センティネル島(North Sentinel Island)には研究者が過去50年間に2度ほど上陸を試みたが、いずれも住民に槍と弓矢で襲われて逃げ帰ったという。

軍事的要衝であるため、インドへのビザとは別に入域許可が必要。2004年のスマトラ島沖地震による津波で大きな被害を受け、ニュース映像を通じて世界的にその美しさが知られるようになり、ここ数年、観光客やダイバーが訪れるようになった。写真はハヴェロック島(Havelock Island)で撮ったもの。











2010/12/04

飲酒運転で集団強姦!?! 過激な安全運転キャンペーン

南半球に位置する南アフリカは、日本と季節が逆だ。夏休みは12月~1月。約5週間と長い。ちょうどクリスマス、お正月にかかることもあり、大人も同じ頃長期休暇を取って家族旅行を楽しむ。運輸省では12月1日を「休暇シーズン」開始日とし、交通事故数や死亡者数を数え始める。長い休暇に加えパーティーも多いこの時期に交通事故が多発することから、運輸省では毎年「Alive Arrive」(生きて到着しよう)というゴロの良いキャンペーンを展開している。

今年は民間から力強い助っ人。大手アルコール飲料会社のブランドハウス(Brandhouse)が、ショック療法を取り入れた一大キャンペーンを張ることにしたのだ。名付けて、「Drive Dry」(素面で運転しよう)。

例えば、今週始まったテレビコマーシャル。一癖もふた癖もありそうな半裸の男たちが、自分自身のことや好みの相手について語っている。カメラが引くと、そこは留置場。部屋にひしめく男たちはどう見ても札付きの犯罪者である。意味ありげな字幕が画面に映る。「コイツラは、あんたにいい思いをさせたがってるんだ。」そして、決め手の一言。「飲んだら乗るな。」

男性の刑務所や留置場で、集団強姦が一般的に行われているのは周知の事実。「飲酒運転で逮捕され、留置場で一晩明かすことになると、身の保証はできないよ」といった脅し広告なのだ。

通常レイプの被害者と言えば女性だが、泣き寝入りするケースが殆ど。警察に通報するのは、25件に1件と推定されている。男が男に強姦された場合、男のコケンとかプライドとかが邪魔するせいか、通報率は更に低いという。勿論カウンセリングを受けることもなく、一生誰にも話せない心の傷を負うことになる。

受刑者の人権保護団体のゴールデン・マイルズ・ブドゥ(Golden Miles Bhudu)氏によると、この広告の描写は「正確」。刑務所や留置場では暴力、拷問、集団強姦、ギャング団の抗争、看守による虐待などが当たり前という。不注意や飲酒運転などが原因で留置所や刑務所のお世話になるハメになり、集団強姦や拷問の犠牲になるのはワリに合わない。「法律を守るのに越したことはない」「法律を破れば、その責任を取るには自分」というブドゥ氏、ブランドハウスの広告に好意的だ。

交通局も、この「民間とのパートナーシップ」を歓迎。南アでは毎年約6000人が、飲酒運転による交通事故で命を落としている。また、交通事故死した人の半数の血液から、100ml当たり0.05グラム以上のアルコールが検出されている。

刑務所の悲惨な状況や人権侵害を告発するとも取れる広告は、管轄官庁にとってかなり不名誉なものだが、今のところ政府から苦情は出ていない。ブランドハウスではテレビ、新聞、ビルボードといった一般的広告メディアに加えて、パブや洗車場などでポスターを貼ったり、インターネットで流したりする予定とのこと。


 (参考資料:2010年12月4日付「Saturday Star」など)