2011/01/26

金貨自動販売機 犯罪大国南アで生き残れるか

犯罪大国として悪名高い南アフリカに、金貨の自動販売機を設置しようと目論む男がいる。ドイツ人のトマス・ガイスラー(Thomas Geissler)氏。

既に、ドイツ、イタリア、スペイン、UAE、アメリカなどに計18台設置済み。世界で一番高い建物(ドバイのBurj Khalifa)の1階と125階に、昨日1台ずつ設置したばかり。観光客が集まるケープタウンのウォーターフロントには、今年中に設置したいという。

このATM、その名も「ゴールド・ツー・ゴー」(Gold To Go)。ファーストフードレストランで注文する際、レストラン内で食べるのを「ツー・ステイ」(to stay)、お持ち帰りを「ツー・ゴー」(to go)というから、「ゴールド・ツー・ゴー」は金貨のテークアウト、お持ち帰り、といった御茶目なニュアンス。

数種類の金貨から、お好みのものを選ぶ。支払いは、現金またはクレジットカード。お値段は、10分毎に更新される金のスポット価格に基づく。

南アでのチャレンジは、いわずと知れた犯罪の多さ。警察の統計によると、犯罪の増加は頭打ちという。だが、ATMの襲撃は急増している。2010年には前年比35%増。この数字は、通りがかった親切な人のふりをしたり、ATMに細工をしたりして、カードや暗証番号を盗むヤワな犯罪者は含んでいない。文字通り、機械自体の「襲撃」数。例えば、昨日、センチュリオン(プレトリア近郊の町)でアブサ銀行のATMが爆破された。

南ア最大の金貨取扱商South African Gold Coin Exchangeのアラン・デンビー(Alan Demby)会長は、金貨ATMの問題を指摘する。紙幣なら前もって印をつけておくことができるが、金貨は溶かして売りさばけるので、一旦盗まれたら打つ手がないというのだ。

もしケープタウンに設置が実現したら、金貨のお持ち帰りを享受するのは果たして消費者か、それとも犯罪者か。

(参考資料:2011年1月26日付「Business Day」など)

2011/01/25

納税者数が73%も増加 それでも就業人口の半数以下

南アフリカ国税庁(South African Revenue Service: SARS)が昨日発表したところによると、2009/10年度に所得税を払った個人は590万人。2002/03年度の340万人から73%も増加した。

これは大変喜ばしい。というのは、南アフリカでは全国で1200万人、つまり人口の約4分の1もが、なんらかの福祉手当を受給しているからだ。ちゃんと税金を払っている人が増加すれば、福祉手当を受け取る人数の減少と福祉手当を払う財源の増加につながる。

SARSでは大幅増加の理由を次の4点にあるとする。(1)経済成長、(2)フォーマルセクター就業者の増加、(3)SARSの徴税拡大努力。そして、(4)税金を払う人が元々少な過ぎたこと。

フォーマルセクター就業者というのは、法人税を払っている企業などに勤めている人。源泉徴収があるから、所得税を払わないわけにはいかない。一方、インフォーマルセクターというのは、路上で物を売っている人、家政婦、個人の乗合タクシー営業者など、会社形態をとらない自営業やその従業員などで、法人税も所得税も払っていない。本人が申請しない限り、SARSには実態がつかみづらい。

所得税を払っていない人の銀行口座に多額の入金があればシッポをつかむことが可能だが、現金商売が殆どだし、また、銀行口座を持っていない人も多い。持っていても、入金額が少ない口座をいちいち調べるのは、そこから得られるかもしれない僅かな税収を考えると、SARSにとって労力の無駄。

そこで、SARSでは数年にわたり、大々的なキャンペーンを実施。期限までに納税者申告をすれば、それまで払わなかった税金をすべてチャラにするというもの。73%という納税者大幅増加は、このキャンペーンの成果が大きい。

統計局(Statistics South Africa)によると、15-64歳の人口3135万人から、学生や主婦や働く意欲のない人を除いた労働人口は1711万人。そのうち、就業人口は1280万人。内訳は、農業を除いたフォーマルセクター897万人、インフォーマルセクター201万人、農業65万人、メード・庭師など個人の家庭に雇われている人が117万人。失業者は431万人。失業率25.2%。

2009/10年度の所得税は総額20億7000万ランド。歳入の35%にあたる。2008/09年は31%だった。

歳入の第2位はVATの25%。Value Added Tax(付加価値税)の略で、日本の消費税に当たる。率は商品価格の14%。食料品にはかからないが、サービスには課せられる。因みに、法人税は23%で第3位だった。

2009/10年度の場合、課税所得が5万4200ランド(約65万円)以上ある個人は所得税を払う義務があった。しかし、SARSの税金恩赦キャンペーンにもかかわらず、納税者申告をしていない自営業者がまだ数百万人いると見られている。

(参考資料:2011年1月25日付「Business Day」など)

2011/01/13

入学希望者の行列5キロ ジョハネスバーグ大学

新年が始まり、マイカーを運転して職場に戻るオフィスワーカー。早朝の通勤ラッシュ時、異様な光景に目を疑った。普段は歩く人がマバラな道路沿いに、5キロにも及ぶ行列が出来ているのだ。徹夜した人もかなりいるらしい。交通警官が整理にあたっている。並んでいるのは20歳前の男女。

高級デパートの閉店大売出しでも、人気ロックグループのコンサート前売り券発売でもない。

目指すはジョハネスバーグ大学。入学申請の列なのだ。

南アフリカの学校年度は1月から12月まで。大学は通常2月に授業が始まり、11月には終わる。日本のような大学入試はない。その代り、高校3年生(南アでは小学1 年生から通算で数えるので12年生)は「National Senior Certificate」試験(通称マトリック)を受ける。

全58科目のうち、最低7科目を受験するわけだが、合格に必要な点数はかなり低い。第1言語で40%以上、第2言語で30%以上、算数または数学で30%以上、「生徒の個人的、社会的、知的、情緒的、精神的、身体的成長及び発展」(教育省の文書に よる)を目的とする「ライフオリエンテーション」(life orientation)で40%以上、また残り3科目のうち1科目で40%以上、2科目で30%以上。

選択科目には聖書学習とか木工細工とか農業とか、勉強が苦手な人でも点を取りやすいものが結構ある。ライフオリエンテーションの合格率は99.6%だった。つまり、マトリック自体はあまり難しいものではない。中には10科目以上受験して、すべて80%以上というツワモノもいる。

今年度の合格者は36万4513人、合格率67.8%。昨年度の60.6%から大幅上昇。大学入学資格を得た生徒も、昨年の19.9%から23.5 %へと上昇。12万6371人が晴れて大学に入学申請できることになった。

とは言っても、喜んでばかりもいられない。大学進学希望者が増えたのに、受け皿が十分ないのである。

アパルトヘイト時代、大学は人種別だった。英系白人、アフリカーナ系白人、カラード、インド系、黒人・・・とそれぞれを対象にした大学があった。アパルトヘイトが終わって人種枠が取り払われ、誰でも好きな大学に応募できるようになった時、レベルが高く、設備も良い旧白人大学に希望者が集中したのは当然の成行きだろう。

ジョハネスバーグ大学(University of Johannesburg)、通称UJはかつてランドアフリカーンス大学と呼ばれ、アフリカーナのための名門大学だった。授業は元々アフリカーンス語で行われていたが、アパルトヘイト撤廃後生き残るために英語の授業を大幅に増やした。レベルは高いのに、ヴィットヴァータースラント大学(University of the Witwatersrand)、通称ヴィッツほど入学条件が難しくないことから、ジョハネスバーグでは一番人気である。

昨年末のマトリックの結果が発表されたのは、つい先週のこと。UJの今年度の学生登録は1月21日から。つまり、入学申請し合格し登録を開始するまでに10日程度しかない。それで今週、申請者が殺到したわけだ。

今回マトリックを受けたのは64万3546名。12年前小学校に入学した時の総数は131万8932人だった。12年間に半数以上の67万5386名がドロップアウトした計算になる。それを考えると、大学入学資格を得た12万人がエリートと自負(誤解?)しても不思議はない。学位は「貧困を抜け出し人生で成功する近道」と考え、「大学入学資格を手に大学へ赴けば、即座に入学できる」と信じている生徒も多い。

だが、人気のある全国7大学の新入生枠は合計5万人。各大学はマトリックの結果だけではなく、11年生、12年生の年度末試験結果や、大学・学部ごとのクライテリアに基づいて誰を入学させるか決める。

UJでは定員1万3000人に6万3400人が押しかけた。大部分の応募者が不合格になり、10日以内には、泣きべそや怒り顔が続出するだろう。彼らは一体どこに行くのか。職業訓練所や専門学校の増設が望まれる。

(参考資料:1月7日付11日付「The Star」、1月11日付12日付「The Times」など)

2011/01/09

信号機の盗難続出 最新設備がアダに

ジョハネスバーグの交差点400箇所以上で信号機が作動しなくなった。クリスマス・お正月休暇中に部品が盗まれたためだ。

事件の発端は11月末。50台の信号機から部品が盗まれた。市は数日以内に修復。ところが、12月末からほんの数日の間に、新たに350台の信号機が壊されてしまった。

ジョハネスバーグ道路局(Johannesburg Roads Agency:JRA)では、信号機が故障したら自動的に知らせを発信する最新設備を導入したばかり。信号機に設置されたのは、GPRS(General Packet Radio Services)装置とSIMカード(Subscriber Identity Module Card)。故障はGSMネットワークを使ってJRA本部に通知される。

GSM(Global System for Mobile Communications)は、世界200か国以上で約20億人が使っている携帯電話の規格。世界の携帯電話端末市場の8割以上がGSM方式である。

突然現れた信号強盗魔の狙いはSIMカード。信号機を壊して中のSIMカードを盗み、手持ちの携帯電話に挿入すれば、電話がかけ放題なのである。国際電話だって大丈夫。電話代の請求はSIMカードの持ち主、つまりジョハネスバーグ道路局(JRA)に送られる。JRAには既に、お喋り犯罪者のお蔭で多額の請求書が届いているという。

JRAは市内600の交差点にこのシステムを導入した。その3分の2が作動していないわけだが、1台修理するのに2万2千ランド(26万4千円)。400台で1億円を超す。財政難の市にとっては痛い出費。しかも、修理してもまた壊される危険大。

壊された信号機は、SIMカードが入っているものだけ。外見は同じだから、犯人は手当り次第壊してみたわけではなく、どの信号機にSIMカードが入っているか事前に知っていたわけだ。その情報を持っているのはJRAと請負業者のみ。犯人は最新システム導入済み信号機のリストを盗んだか、内部の人間から情報を入手したらしい。

情報のアンテナを張り巡らし、ビジネスチャンスを逃さない犯罪者たち。足を洗えば、起業家として大成功するかもしれない。

(参考資料:2011年1月5日付「The Star」など)

2011/01/05

お土産に100兆ドル札はいかが? ジンバブエ

100兆ドル札。1のあとにゼロが14ついたお札だ。全世界の人間に1000ドルずつ配っても、まだおつりが来る額である。このお札が最近、観光客のお土産として人気があるという。

ドルと言っても米ドルではなく、ジンバブエのお話。ムガベ大統領の悪政がたたって、経済が崩壊していた頃の名残り。とにかくものすごいインフレで、新しい紙幣を刷っても刷っても追いつかなかったのである。

初めてジンバブエを訪問したのは1993年。車で2週間国中をまわったが、どこに行っても活気があり良い国だった。国民の教育レベルが高く、南アフリカの通貨1ランドが1.5ジンバブエドル程度だった。

2001年に行った時は通貨の闇市場が出来ていた。政府の定める為替レートが現実を反映していないためだ。1ランドが50~60ドル。その直前に「外国人の身の安全は保証しない」と大統領自ら公言していた。

2004年には国内でガソリンが入手できないということで、南アからガソリンを積んで出かけた。1ランドが1200~1300ドル。インフレが急速に進み、刷りかけの50ドル札が2万ドル札として転用されていた。隅に「50」と印刷してある紙の上に「20000」を印刷したものだ。かつて紙幣を飾った動物も風景もなくがっかりしていたら、表の真ん中になんと!

「2004年12月31日まで有効」

の文字。生まれて初めて、有効期限付きの紙幣を手にした。発効日は2003年12月1日。

経済が完全に破綻し、南アに難民がなだれ込んだ2008年。世界最高を誇るインフレ率は数十億%。毎時間のように物価が上昇する。7億ドルで買えるのはパン一斤。商店の棚はからっぽ。ジンバブエ国民は「世界で最も貧しい億万長者」と自嘲した。

ジョハネスバーグの難民キャンプで出会った女性は、「大統領は国民にとって父親のようなもの。私たちのお父さんは子供のことを気にかけてくれない」と嘆いた。

発行された最高額の紙幣は「100禾予」(のぎへんに予。「ジョ」)。つまり、
100,000,000,000,000,000,000,000,000。
10の25乗。ゼロが26個。

その後、ゼロをいくつか取り去って通貨の切り下げをおこなったが、焼け石に水。ついにムガベ大統領は反対勢力の弾圧を緩め、野党との連立政権に踏み切る。

経済が安定し、活気が蘇りつつあるジンバブエ。観光客も戻って来た。そこで人気が出てきたのが冒頭のお札である。100兆ドル紙幣の相場は5ドルとのこと。余りの人気に、残り少なくなっているらしい。入手したい方はお早めに。

説経済が安定していた時代の20ドル札(表)

裏にはゾウとビクトリアの滝の図柄

有効期限付きの2万ドル札(表) 右下に50の文字


殺風景な裏側
(参考資料:2011年1月3日付「Mail & Guardian Online」など。写真は筆者による)

2011/01/02

マハーバリプラム 古(いにしえ)の東西貿易拠点

マハーパリプラム(Mahabalipuram)はチェンナイ(Chennai)から60キロ南下したところにある、ベンガル湾沿いの小さな町。旧名マーマッラプラム(Mamallapuram)。

パッラヴァ(Pallava)朝の貿易港として栄え、7~9世紀に造られた花崗岩のヒンドゥー教建造物で有名。花崗岩に台地上の石山を掘削した石窟寺院、女神、ライオン、象などが浮彫(レリーフ)として刻まれた岩壁彫刻、堂の全体を岩の塊から彫出した石彫寺院(ラタ Ratha)、切石を積んだ石造寺院など。1985年、ユネスコ世界遺産に登録。

人口1万2000人強。識字率は74%で、全国平均の59.5%よりかなり高い。孤児院が多いことでも知られている。