2010/11/29

男性の4割近くが女性をレイプ 最新世論調査

またもやショッキングな世論調査結果が発表された。ハウテン州に住む男性の37.4%が「女性をレイプしたことがある」と答えたのである。7%は「集団強姦に参加したことがある」と認めた。

更に、「男性に暴力を振るわれたことがある」女性は全体の51%。「女性に暴力を振るったことがある」男性は78%。

調査を行ったのは、政府機関の医療研究審議会(Medical Research Council: MRC)とNGOのジェンダーリンクス(Gender Links)。南アの人口構成を反映させて、アンケートの対象は90%が黒人、10%が白人。男性487人、女性511人。

昨年、東ケープ州とクワズールーナタール州で行った調査では、28%の男性が「成人女性または少女をレイプしたことがある」と答えた。「その数字があまりに高かったので、それ以上の数字は予想していなかった」とMRCの研究者、レイチェル・ジュークス(Rachel Jewkes)は驚く。

2007年、警察に通報されたレイプは、3万6190件。1日に99件の計算になる。1996年の5万481件から比べるとかなり減っているが、それでも世界最高レベル。MRCでは、警察に通報されるのは25件に1件と見ている。南ア警察の推定は、35秒に1件という。

レイプされるだけでもかなりのトラウマであるのに、HIV感染率が高い南アでは、エイズになるかもしれないという恐怖がある。昨年の調査では、「レイプをしたことがある」と回答した男性のうち5人に1人がHIV陽性だった。

「女性をレイプしたことがありますか」と質問されて、「はい」と答えた人が4割近くもいることにまず驚く。正直に答えたのなら、南アの男性は、レイプを犯罪ではなく日常生活の一部として認識しているようで怖い。もし「正直に言うのはまずい」と一般に思われての回答が4割だとしたら、実際の数字はもっと高くなる。それも怖い。

更に、これを報道した新聞記事が、わずか80語余りの短いものだったことに驚く。目を通した他の2紙は全く触れていなかった。大したこととは、メディアにも認識されていないのである。

あまりの犯罪の多さに、国民の感覚がマヒしてしまっているのだろうか。カマの水が段々熱くなるのに気がつかず、茹で死にしてしまうカエルを思い浮かべた。

(参考資料:2010年11月19日付「Business Day」など)

エイズ治療薬から麻薬!?! エイズ患者を狙った強盗増加

ARVとは何かご存じだろうか。antiretroviral(抗レトロウィルス)の略だ。正確にはARV薬だが、南アフリカでARVというと抗HIV薬を指す。HIVは human immunodeficiency virus(ヒト免疫不全ウィルス)の略。エイズ(AIDS:acquired immunodeficiency syndrome)を引き起こすウィルスだ。

厳密に言うと、ARVはエイズを治す訳ではないから「治療薬」とは言えない。だが、やせ細って寝たきりで死を待つばかりだった患者が体重を取戻し、元気に通常の生活を送れるまでに回復するため、エイズ患者にとっては「奇跡」をもたらす素晴らしい薬だ。ARVのおかげで、特に先進国では、「エイズは死なない病気」と認識されるようになった。

南アではつい数年前まで、HIV感染率世界一というのに、国がエイズ患者の手当てを拒否していた。ターボ・ムベキ大統領とマント・シャバララムシマン保健相という最有力政策決定者が、HIVがエイズの原因であることを否定していたためだ。金持ちはいい。金さえ払えば、私立病院でARVを買うことができる。しかし、国民の大多数を占める貧しい人々は、公立の医療機関頼みである。国会議員に特権でARVが支給される一方で、一般国民は見捨てられていた。金も薬もある豊かな国なのに、愚かな政策によって、36万5000人が無駄に命を落としたと推定されている。

その後、やっと国が政策転向し、ARVが国民に支給されるようになった。ところが、最近思ってもみなかった問題が。。。

エイズ患者を狙った強盗事件が、全国で毎週100件は起きているというのだ。目当ては患者が持つ薬、ARV。

その原因は、今はやりのカクテル麻薬「ウーンガ」(whoongaまたはwunga)。マリファナ、ARV、ネズミを殺す劇薬の成分などを混合したもので、既に数千人の中毒者がいるという。1錠のお値段は、15ランドから35ランド(200~400円程度)。中毒になると、1日に7錠以上服用する。

麻薬シンジケートにとって一番の問題はARVの入手だ。処方箋がないと買えない。手っ取り早い手段として、薬を持っているエイズ患者が狙われる。

エイズ患者だけではない。診療所や配達トラックも、強盗の対象となる。政府は現在、約4000箇所で約70万人にARVを支給している。つまり、強盗の対象となるのは、全国で70万人の患者、4000箇所の診療所、且つ4000箇所に薬を配達するトラック、と膨大な数にのぼる。これでは、警察もお手上げだ。ロビー団体TAC(Treatment Action Campaign)の話では、ARVをシンジケートに売る看護婦までいるという。

中毒とは恐ろしいものだ。リバヒリセンターなどによると、中毒者の中には、薬の材料であるARVを確保するために、意図的にHIVに感染した者もいる。薬を買う資金稼ぎのために、10代の妹を中毒患者にして売春させた者もいる。

そうでなくても、せっかく軌道に乗り始めた南アのエイズ対策には、暗雲が待ち受けている。ロジスティックな問題と人材不足のために、薬を必要とする人の8割にARVを支給するという目標が、来年達成できないかもしれないというのだ。

ARV強盗で一番困っているのは、40万人以上が国からARVの支給をうけているクワズールーナタール(KZN)州。ジェイコブ・ズマ大統領のお膝元である。かつての日本だと、総理大臣の出身地に高速道路や新幹線が作られたものだが、さて、ズマ大統領は?

(参考資料:2010年11月28日付「Sunday Times」など)

2010/11/25

南アフリカのアインシュタインはどこに? アフリカ数学研究所(Aims)

「次のアインシュタインはアフリカから!」

そんな熱い思いで、アフリカ数学研究所(African Institute for Mathematical Sciences:略称Aims)がケープタウンに設立されたのは、2003年のこと。西ケープ州の3大学(ケープタウン大学、ステレンボッシュ大学、西ケープ大学)とヨーロッパの有名大学3校(ケンブリッジ大学、オックスフォード大学、パリ大学)の共同事業である。

HPによると、目的は次の3点。

  • アフリカにおいて、数学と科学を啓蒙する。
  • 才能ある学生と教師をリクルートし、トレーニングする。
  • アフリカが教育、研究、技術の面で率先できるキャパシティ作りをする。

将来的には、同様の研究所を他のアフリカ諸国にも設立したいという。

Aimsが誇るのは、大学院レベルのコース。授業料無料。1年でディプロマ(diploma)が取得できる。ディプロマは学士号、修士号、博士号といった学位(degree)ほど重みはないものの、立派な資格である。希望する生徒には、上記6大学が協力して、修士号や博士号も提供する。

これまでAimsでディプロマを取得したのは、アフリカ30か国からやってきた305名。うち、南アフリカ人は僅か13名。

今年の応募者は306人。合格したのは21か国53人(うち女性15人)。かなりの難関だが、南ア人はなんと、ゼロ!

もともと、南アの学生に数学は人気がない。アパルトヘイトが終わって急増した黒人学生の多くは、文系で学位を得て就職することを好む。どこの大学も、理系、特に数学を専攻する学生を獲得するのに苦労している。

南アの小中学生が数学・理科を不得意とするのは、周知の事実。国際的なテストがあるたびに、メディアから揶揄されている。1995年から4年ごとに行われているTIMSS(Trends in International Mathematics and Science Study)は、4年生と8年生(日本の中学2年生)の数学と理科の学力を測定しているが、南アは8年生のみ参加。2003年は46か国中、数学も理科も最下位だった(Highlights from the Trends in Internaitonal Mathenatics and Science 2003)。よほど恥ずかしかったのか、2007年は参加していない。

とは言っても、アフリカで最も豊かな国である。大学生の数も多い。それなのに、今年Aimsのディプロマコースに応募した南ア人はたった1人。それも合格レベルに達していない学生だった。

Aimsに予算をつぎ込んだ南ア政府は、当然のことながら不満だ。科学技術省はこれまで1300万ランドの補助金を出した。高等教育省は2007年から1000万ランド、更に今年、「南ア人学生を増やす」という条件付きで、4年分1200万ランドの援助を与えた。南ア人ゼロの研究機関に税金をつぎ込むのはおかしい、というのは正論だろう。

だが、Aimsを責めるのはお門違いである。Aimsが受け入れるのは、大学院レベルの学生だ。小学校レベルから、理科や算数が好きな子供を育てる教育に力を入れる必要がある。一番の問題と言われる教師の質を向上させ、おそまつな授業内容を改善しなければならない。これは、政府、特に基礎教育省の管轄だろう。

Aimsのバリー・グリーン(Barry Green)所長によると、南ア人応募者が少ない理由のひとつは、Aimsの学校年度(9月から)と南ア大学の学校年度(1月から)が異なること。そのため、入学時期を2回に増やすことを計画中だという。

次世代の科学者がアフリカから大量に生まれるのは、いつの日のことか。

AimsのHPは、こちら。
African Institute for Mathematical Sciences

(参考資料:2010年11月12日付「Mail & Guardian」など)

2010/11/19

ウィリアム・ケントリッジ 京都賞受賞

サッカーワールドカップ(W杯)をきっかけに、南アフリカに対する関心が高まるのではないか。実際に訪問して人々の暖かさや美しく雄大な自然に触 れ、日本で言われているほど危険ではないことに気づいてもらえるのではないか。様々な報道を通じて、「危険」一辺倒ではなく長所にも目が向き、多面的な理解が深まるのではないか。これらは、南アに思い入れのある人々共通の願いだったと思う。

残念ながら、報道では「危険さ」ばかりが喧伝され、一般の関心もW杯終了と同時に消滅したと聞いた。確かに、10月末から2週間ほど日本に滞在した間、南アの話題を殆ど耳にしなかった。南アが日本人にとって遠い国であることを再実感した。

ジョハネスバーグに戻って留守中の新聞を広げてみると、日本ではめったに南ア報道がないとは言え、当然のことながら空欄はなく、連日全国で事件が起きている。それも、ジョハネスバーグ市の警察官の20%が汚職に関わっているとか、治安相の妻が麻薬密輸の元締め容疑で取り調べを受けているとか、15歳の少女が出産した結合双生児の父親は、少女の実の父親だったとか、なかなかすさまじいニュースが満載されている。

これだけ騒々しい、ある意味ではエキサイティングな国なのに、日本人にとって存在しないも同然であることは、地理的な遠さと歴史的政治的な結びつきの弱さを考えると当然である。だがその一方で、最近益々外に目が行かなくなったと言われる日本人の一面を如実に表しているような気もする。

などと感慨にふけっている時、「Kentridge wins big in Japan」(ケントリッジ、日本で大きな賞を受賞)という見出しが目に飛び込んできた。11月11日付「ザ・タイムズ」紙の小さな囲み記事だ。南アで一番有名なアーチスト、ウィリアム・ケントリッジ(William Kentridge)が京都賞を受賞したというのである。

京都賞は「世界的な業績に与えられる民間の賞としては日本で最高」「スェーデンのノーベル賞に比される」そうで、「20カラットの金メダルと賞金5000万円(420万ランド)がついてくる」と「ザ・タイムズ」紙。

京都賞の主催者は、稲盛財団(Inamori Foundation)。京セラの設立者、稲盛和夫氏(現名誉会長)が1984年に設立した。HPによると、「京都賞」顕彰事業、研究助成事業、社会啓発事業を活動の3本柱にしている。

京都賞の受賞資格者は、「京セラの我々が今までにやってきたと同じように、謙虚にして人一倍の努力を払い、道を究める努力をし、己を知り、そのため偉大なものに対し敬虔なる心を持ちあわせる人」且つ「その業績が世界の文明、科学、精神的深化のために、大いなる貢献をした人」且つ「その人は自分の努力をしたその結果が真に人類を幸せにすることを願っていた人」。

業績を挙げただけではダメなのである。謙虚とか、敬虔とか、人類の幸福を願うとか、精神面が重視される。トテツモナイことを求められているようだが、実際問題、点数づけが難しい。

受賞対象は以下の3部門。

「先端技術部門」・・・「エレクトロニクス」「バイオテクノロジー及びメディカルテクノロジー」「材料科学」「情報科学」の4分野。

「基礎科学部門」・・・「生物科学(進化・行動・生態・環境)」「数理科学」「地球科学・宇宙科学」「生命科学(分子生物学・細胞生物学・神経生物学)」の4分野

「思想・芸術部門 」・・・「音楽」「美術(絵画・彫刻・工芸・建築・デザイン)」「映画・演劇」「思想・倫理」の4分野

今年の受賞者は、医学者の山中伸弥(Yamanaka Shinya)、数学者のラースロー・ロヴァース (László Lovász)、そしてケントリッジである。

山中氏の受賞理由は、「皮膚線維芽細胞にわずか4種類の転写因子遺伝子を導入することによって胚性幹細胞(ES細胞)と同様な多分化能をもつ人工多能性幹細胞(iPS細胞)を作りだすことに成功した。この技術は再生医療の可能性に道を開くのみならず、医学全般の飛躍的発展に大きく貢献することが期待される。 」

ロヴァース氏の場合、「離散構造に関する先端的な研究を行うことによって、アルゴリズムの観点からさまざまな数学分野を結びつけ、離散数学、組合せ最適化、理論計算機科学などを中心とする数理科学の広い範囲に影響を与え、学術的側面と技術的側面の両面において、数理科学の持つ可能性を拡大することに多大 な貢献をした。」

いずれも素人にはチンプンカンプンながら、なんだか凄そうである。

ケントリッジは、「素描という伝統的技法をアニメーションやビデオ・プロジェクション等の多様なメディアの中に展開させながら、諸メディアが重層的に融合する現代的な新しい表現メディアを創り出し、社会と人間存在に対する深い洞察を豊かなポエジーをもって表現する独自の世界を創始した。」

う~ん。素人ではないが、やはりチンプンカンプンである。

精神面の評価はどうなるのか心配したが、結構まともで現実的な受賞理由だったので安心した。ゲイジュツカやテンサイに謙虚とか敬虔とかを求めるのは、ある意味で自己矛盾している。ピカソにせよ、ヘミングウェイにせよ、その他多くの偉業を残した人々にせよ、お友達にも敵にもなりたくない、人間的にはヒドイヤツが多いものなのだ。(勿論、中にはイイ人もいるだろうけど。。。)

京都賞が「素描とアニメーション等を融合させた新しい表現メディアを創出し、独自の世界を切り拓いた芸術家」 と絶賛するケントリッジは、1955年4月28日、ジョハネスバーグの裕福なユダヤ系南ア人の家庭に生まれた。現在も育った家に住んでいる。

木炭やパステルで描いたドローイングを撮影し、少し修正して撮影し、また少し修正して撮影し・・・という気の遠くなるような作業で作成したドローイングのアニメーションで有名だ。写実的なペインティング(絵具を使っての絵画)が出来ないためにドローイング(素描)にこだわったと言われているから、絵が描けないためにシルクスクリーンを使ったポップアートに走って大成功したアンディ・ウォーホール(Andy Warhol)に通じるところがあるかもしれない。ウォーホール同様、かなりの商売人でもある。

作品の多くにアーチスト自ら登場する。普段も、白い帽子に黒いシャツに白いスーツといった目立った格好で歩いているから、かなりの自意識を持っていると思われる。

日本では2009~2010年に、京都国立近代美術館、東京国立近代美術館、広島市現代美術館で個展『ウィリアム・ケントリッジ—歩きながら歴史を考える』を開催。昔の作品から最新作まで、全て見るのに最低半日はかかる大個展だった。

東京国立近代美術館での個展開催時に、運よく日本にいた。日本ではそれほど名前が知られていないせいか、日曜日と いうのに行列もない。南アでの展覧会よりずっと楽しめたのは、新しい場所、新鮮な目で見ることができたせいかもしれない。

南アでは、ケントリッジは神格化している。ピカソ同様、個別の展覧会や作品の冷静な鑑賞はあまり行われず、「ケントリッジだから素晴らしい」という風潮に満ちている。

今年5月2日、ジョハネスバーグ・アート・ギャラリーでの個展のオープニングはひどかった。

会場を埋め尽くすファンの大部分は白人。普段は寄りつかないインナーシティに押しかけ、ケントジッリを新興宗教の教祖のように崇め奉る。一段高い位置に立ったケントリッジは尊大な態度でスピーチを行う。ご神託でも受け賜るかのように、その一言一言に聞き入るファ ン。あまりの人だかりと騒音のため、作品鑑賞は不可能。少女ファンの金切声で演奏が聞こえないロックバンドを思い起こさせた。

肝心の個展はというと、名前に惑わされない一部の人の評価は「いまいち」。だが、批評家や一般市民は「さすがケントリッジ!」と感動していた。ベートーベンの第5やチャイコフスキーのピアノ協奏曲など超有名な楽曲が演奏されると、その質にかかわらず「ブラボー!」を連発し、簡単にスタンディングオベーションしてしまう南アのクラシックファンと似ている。とすると、これは南ア白人の民族性?

ケントリッジの受賞の言葉は、YouTubeにアップロードされている。
ウィリアム・ケントリッジ-京都賞2010-受賞の喜びを語る (作成者:稲盛財団)

(参考資料:2010年11月11日付「The Times」など)

2010/11/09

ングバネ元駐日南ア大使 旭日大綬章受章

11月5日の午前中、皇居で秋の大綬章親授式が行われ、16人が天皇陛下から勲章を手渡された。受章者は、桐花大綬章が扇千景(本名・林寛子)元参院議長の一人だけ。残りは旭日大綬章と瑞宝大綬章だ。

この16人の中には、外国人が3人いる。そのひとりが旭日大綬章(きょくじつだいじゅしょう)を受章したボールドウィン・シポ・ングバネ(Baldwin Sipho Ngubane)元駐日南ア大使(愛称ベン)。旭日大綬章というのは、外国人に与えられる最高の勲章であるらしい。では、ングバネ大使の受賞理由は何だったのだろうか。

総理府のHPによると、日本の勲章の最高位は大勲位菊花章(だいくんいきっかしょう)。菊花章頸飾(きっかしょうけいしょく)と菊花大綬章(きっかだいじゅしょう)の2種類がある。

その次に来るのが、桐花大綬章(とうかだいじゅしょう)。受賞対象は「旭日大綬章又は瑞宝大綬章(ずいほうだいじゅしょう)を授与されるべき功労より優れた功労のある方」。

いずれも舌を噛みそうな名前だが、いまいちよくわからない。

旭日大綬章は「功績の内容に着目し、顕著な功績を挙げた方」に与えられる旭日章の最高位、瑞宝大綬章は「公務等に長年にわたり従事し、成績を挙げた方」に与えられる瑞宝章の最高位。旭日、瑞宝とも「大綬章」の後、「重光章」(じゅうこうしょう)、「中綬章」(ちゅうじゅしょう)、「小綬章」(しょうじゅしょう)、「双光章」(そうこうしょう)、「単光章」(たんこうしょう)と続く。旭日、瑞宝以外に文化勲章とか宝冠章とかある。

では、瑞宝章が公務員や政治家で、旭日章がそれ以外ということなのだろうか。

受賞者の顔ぶれ、経歴を見るとそうも言えない。今回、旭日大綬章を受賞したのは、元国家公安委員長、元最高裁判所判事、元防災担当大臣、元農林水産大臣、元法務大臣、元環境庁長官、元通産大臣・自治大臣、元科学技術担当大臣、元郵政大臣、公明党元委員長、それに日本テレビ会長、NTT元社長。公務員と政治家が殆どなのだ。

平成15年5月20日に閣議了解を得た「褒章受章者の選考手続について」という文書によると、「衆議院議長、参議院議長、国立国会図書館長、最高裁判所長官、内閣総理大臣、各省大臣、会計検査院長、人事院総裁、宮内庁長官及び内閣府に置かれる外局の長は、春秋褒章候補者を内閣総理大臣に推薦するものとする。」とある。

とすると、ングバネ大使の場合、外務省の推薦なのだろう。

ングバネ大使は、1941年10月22日生まれ。ラテン語の教師を2年務めた後、1971年に医師の資格を取る。1977年にインカタ自由党(IFP)の中央委員会メンバーとなり、第1回1994年の民主総選挙後、芸術文化科学技術相、クワズールーナタール州知事、駐日大使などを歴任し、現南ア国営放送(SABC)会長。

駐日大使時代の功績が認められての叙勲だろう。今年4月27日に緒方貞子元国連難民高等弁務官、現JICA会長が南アへの支援活動に功績のあった外国人に贈られるO.R.タンボ勲章を受章したことへのお返し、という見方もある。南アが地上デジタル放送日本方式を採用していれば、そのロビー活動の評価も考慮されたに違いないが。(ングバネ氏がこの件に関し総務省高官に会ったことは「メール&ガーディアン」紙などで叩かれており、「私は腐敗していない」と反論している。)

ともあれ、5日夜、ANAインターコンチネンタルホテルで、南ア大使館主催の祝賀レセプションが開催され、約120人の来客が受勲を祝った。

ところで、平成15年から叙勲の「一般推薦制度」が開始されたそうだ。「人目につきにくい分野において真に功労のある人や多数の分野で活躍し功労のある人などを春秋叙勲の候補者として把握するため」とのこと。対象となるのは、「国家又は公共に対し功労のある人(おおむね20年以上活動)で次の(1)又は(2)に該当する人」。

(1)70歳以上の人
(2)55歳以上の人で「精神的肉体的に著しく労苦の多い環境において業務に精励した人」又は「人目につきにくい分野で多年にわたり業務に精励した人」。

「国家又は公共に対し功労のある人」とは、極端に曖昧な表現。70歳以上で、政界とか財界とか官僚にコネがある人は誰でも対象になりそう。但し、「自分自身や二親等内の親族を推薦することはできません」と明記してあるので、勲章が欲しい一般人は知り合いに頼む必要がありそう。2010年秋の褒章受章者だけで、703人と32団体計4173人もいるのだから、その気がある方はロビーする価値あり?