2013/06/16

「伝統」ってなに? マンデラの埋葬場所をめぐって、故郷で論争。

世界で一番有名な南アフリカ人、ネルソン・マンデラ(Nelson Mandela)は現在94歳。7月18日には95歳になる。

アパルトヘイトに反対して、27年間服役生活。1994年の第1回民主総選挙後、大統領就任。一期5年だけ務めて引退。大統領を引退して静かな生活を送るはずだったが、結局、ネルソン・マンデラ財団(Nelson Mandela Foundation)を設立して南ア国内の問題に取り組んだり、国際紛争の調停などに関わったりして精力的に活動。

85歳になった2004年、「電話しないでください。用がある時はこっちから連絡しますから」(Don't call me. I will call you.)との御茶目なセリフを吐いて、「引退生活からの引退」(retiring from retirement)を宣言。以後、公の場に殆ど姿を見せなくなった。10年くらい前から認知症っぽくなってきたと言われている。

今年6月8日に入院。昨年12月から4回目の入院だ。公式発表によると、「重体だが安定した状態」(serious but stable condition)にある。でも、もう長くないだろうな、というのが国民の思い。

当然、埋葬の準備が進む。死なれて墓がない、では困るからだ。

ところが、埋葬場所について、地元で意見が一致していないらしい。

マンデラは今の東ケープ州の村ムヴェゾ(Mvezo)で生まれたが、家族はすぐにクヌ(Qunu)村に移る。マンデラは老後を送る地としてクヌを選び、家を建てた。

現在、マンデラの永遠(とわ)の住処(すみか)が準備されつつあるのは、この家に近い丘の上。この辺りでは一番高い丘だ。

「理想的な場所」とお墨付きを与えるのは、クヌ村から35キロ離れたムタタ(Mthatha)の首長ジョナス・ジョンギシズウェ・ンドザンブレ(Jonas Jongisizwe Ndzambule)。「一家の主は家の傍に埋葬されるのが伝統」だからという。

ところが、クヌを支配する王家は「マンデラ家の墓地」に埋葬すべきと主張する。マンデラ家の墓は、マンデラの家から国道2号線を挟んで50キロ離れたところにある。マンデラの両親や親類の多くがその地に埋葬されている。「家族から離れた場所に埋葬されるべきではない。祖先がそこにいるのだから、同じ場所に埋葬されるべき」というのは、クヌの女性首長の姪、ノニャメコ・バリズル(Nonyaneko Balizulu)。

それに対し、ンドザンブレは「家族全員を同じ場所に埋葬するというのは、西洋の考え方。(私たちの)伝統ではない。私たちの文化では、家屋敷がある土地に家長を埋葬する」と反論。

南アフリカ伝統的指導者会議(Congress of Traditional Leaders of South Africa)の会長、パテキレ・ホロミサ(Patekile Holomisa)の意見はこうだ。「マンデラは両親が埋葬されている『両親の庭』(his parents' garden)に埋葬されるべきである。」

マンデラが属するテンブ(Thembu)クランと共にコサ族を率いてきたムポンド(Mpondo)クランのカンティ・シガウ(Xhanti Sigcau)王子は慎重に言葉を選ぶ。

「私には、マンデラ家を代弁することはできない。マンデラ家はテンブクランに属する。私はプポンドクランの者だから、テンブクランのやり方に鼻をつっこむことはできない。

ただ言えるのは、このような問題に対してどのように対処するかは、それぞれの家族次第だ。」

まあ、それが妥当なところだろう。一番良いのはマンデラ本人が決めること。それが無理なら、マンデラ家が決めれば良いのである。(マンデラ家内部の意見調整も難しいかもしれないが。。。)

一方のマンデラは、具合が悪くなる度に病院に救急車で運び込まれ、治療を受け、またひと月生き延びさせられているようで、なんだか可哀想な気がする。

家族に囲まれ、自宅で静かに息を引き取れるよう、そうっとしておいてあげれば良いのに。マンデラともなると、様々な政治的思惑や個人的思惑が絡み、そうもさせてらえないのだろう。

(参考資料:2013年6月15日付「Saturday Star」など)

【関連HP】
ネルソン・マンデラ財団

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