2014/09/09

「エージェント・マドンセラ」!?! 政府の汚職・不正を指摘するのは「CIAのスパイ」 副国防相が糾弾

南アフリカの副国防相ケビー・マパツォセ(Kebby Maphatsoe)によると、現在の南アフリカで最も尊敬されているツリ・マドンセラ(Tsuli Madonsela)は「CIAのスパイ」だという。その任務は「与党ANCと政府を弱体化させ、アメリカ合衆国の傀儡政権を南アフリカに樹立すること」。(一体、何のために・・・?)

ケビー・マパツォセ(IOL News
マパツォセは9月6日(土)、ソウェトのイベントでこう語った。

「ANCをハイジャックさせてはならない。我々はANCを守るために闘う。ツリは誰が自分のハンドラーなのか、告白すべきだ。」

「彼らは我々の国家機関まで利用している。」「ANCが設立した機関なのに、ANCに対抗するために利用されている。CIAの仕業だ。アメリカ人は自分たちの手先を南アフリカのCEOにしたいんだ。そんなことを許してはならない。」

ツリ・マドンセラ(IOL News

ツリ・マドンセラは「パブリックプロテクター」(Public Protector)。政府・国家機関・国家公務員などの違法行為・横暴に対する国民の訴えを受理・調査するのが仕事。汚職にまみれたANC政権だから、当然、調査の大半は権力に深く関わっている人たち。相手が大統領であろうと、ツリ・マドンセラはへつらうことなく、公平・公正を期して調査・提言を行う。(詳しくは「南アフリカの良心、ツリ・マドンセラ マイリー・サイラスのパロディ」をお読みください。)

そんな人物を「CIAのスパイ」呼ばわりするのはかなりの暴言。それも発言者は、国家の安全を司る国防省の副大臣という要職にある大物政治家。アメリカの国防長官が司法長官を「ロシアのスパイ」と糾弾するようなものだ(アメリカは国家レベルのオンブズマン制度がないので、行政から独立している司法長官を例にした)。よっぽどの根拠がない限り、おいそれと口に出来るようなことではない。欧米だったら、下手をすると発言者の政治生命が絶たれてしまう。外交問題にも発展しかねない。

駐南ア米大使パトリック・ギャスパード(Patrick Gaspard)はマドンセラがCIAのスパイであることを完全否定。「外交ルートを通じて苦情を申し立てる」という。本心は「バカバカしくてやってられないな」というところではないか。

マドンセラのオフィスは、例によっていたって冷静・適切な反応。マパツォセに対し、「72時間以内に、マドンセラがスパイであるという証拠を提出する、または発言を撤回し公に謝罪すること」を求めた。マパツォセが求めに応じない場合は、パブリックプロテクターを「侮辱」(contempt)するのは犯罪にあたることを規定した「パブリックプロテクター法」(Public Protector Act)第9条及び11条を適用し、告訴するという。

マパツォセは発言撤回どころか、反撃に乗り出した。8日(月)、レポーターたちを前にして、

「亡命中、我々は個々人の行動に基づいて、敵のエージェントを特定した。」 亡命中・・・って、いつの時代の話・・・?

今の南アフリカには「もうひとつの政府がある。自分以外の機関を尊重しない、ツリ・マドンセラの政府だ。」「ツリ・マドンセラの行動は敵のエージェントの行動であると言わざるを得ない。」「ツリ・マドンセラ弁護士が自分は憲法より強大で、憲法を超越していると思っているのなら、自分のハンドラーが誰か、国民に告げるべきだ。」「マドンセラは自分を神だと思っている。」

マパツォセの発言の「根拠」は、ANCが関わる汚職・不正に対するマドンセラの対応。マドンセラの仕事は権力の横暴から国民を守ることなので、政権を担当するのがANCではなく別の政党であっても、調査を依頼されたら同じように取り組むに違いない。職務を忠実に実行しているだけだ。それを、「ANC幹部の不祥事を指摘する=アメリカのスパイ」とはめちゃめちゃな論理。しかも、アメリカは南アフリカの「敵国」ではない。マパツォセはアパルトヘイト時代、ソ連で軍事訓練を受けたらしいが、頭の中ではまだ冷戦が続いていて、自分は亡命中の革命家で、アメリカは敵国なのだろうか。

ANC幹部がいきなりCIAを持ち出すのは、目新しいことではない。ターボ・ムベキ(Thabo Mbeki)は大統領時代、「アフリカでエイズが蔓延しているのはCIAの陰謀」と本気で信じ、CIA陰謀説文書を閣議で配ったことがあった。確かにCIAは冷戦中、アフリカ各地の政治の陰で暗躍したが、それはソ連に対抗してのこと。空想レベルで何でもかんでもCIAのせいにされては、アメリカも閉口するだろう。

今更ながら、ANC幹部の知能レベルの低さに言葉を失った。

(参考資料:2014年9月9日付「The Times」、「IOL News」)

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