2012/03/18

「コニーを捕まえろ」 先進国の驕り? ウガンダ

KONY 2012。ユーチューブにアップロードされた、約30分のビデオだ。私はなんと!8185万3498回目のビューアー。日本語字幕版もある。

 

「KONY」とはLRA(Lord's Resistance Army)、「神の抵抗軍」の指導者ジョセフ・コニー(Joseph Kony)のこと。

ジョセフ・コニー
1961年、ウガンダ北部のオデク(Odek)村に生まれる。両親はアチョリ(Acholi)族の農民ルイジ・オボリ(Luizi Obol)とノラ(Nora)。父親はカトリック教会、母親は聖公会に属する。

1980年代の半ば、アチョリ族の居住区では、キリストの再臨を信じる前千年王国説(Premillennialism)に基づいたグループが乱立。コニーも同様のグループを開始する。

「神のスポークスマン」を名乗り、「聖霊」の意志を人間に伝えるとするが、教えの中身は神秘主義、アチョリ民族主義、キリスト教原理主義のゴッタマゼ。「十戒」の実現を目指し、銃弾を跳ね返す「聖油」を使用する。

ウガンダでは1981年に内戦が始まり、1986年にヨウェリ・ムセヴェニ(Yoweri Museveni)が率いる一派が勝利を収める。敗れた大統領ティト・オケロ(Tito Okello)がアチョリ族出身であったことから、アチョリ族は新政権を歓迎しなかった。

コニーはこの状況を利用。反ムセヴェニ派の兵士を取り込む。「神」と「軍」が一体となったのだ。

1987年4月オデク村を出て間もなく、一般市民の襲撃を開始。子供を誘拐し、女の子は性的奴隷、男の子は兵士として使った。子供たちに自分の両親を殺させたり、ナイフで犠牲者の鼻などをそぎ落とさせたりといった行為を強要した。誘拐された子供たちは3万人とも、10万人とも言われる。

コニー自身、誘拐した少女たちを「妻」にした。2007年の時点で、妻が88人、子供が42人いたとされる。

あまりの残虐非道さに、2005年6月10日、国際刑事裁判所(ICC:International Criminal Court)がLRA幹部5名に逮捕状を発行。

2010年3月11日、コニーとLRAの活動を阻むことを目的とした「神の抵抗軍非武装化と北部ウガンダ回復に関する法」(the Lord's Resistance Army Disarmament and Northern Uganda Recovery Act)が米上院で満場一致で可決。5月にバラク・オバマ大統領が署名し、施行される。更に、2011年10月、オバマ大統領は約100名の軍事アドバイザーを中央アフリカに送ることを許可する。

2012年3月、ジェイソン・ラッセル(Jason Russell)が「2012年中にコニーを逮捕する」ことを目的とするビデオ「KONY 2012」をユーチューブ(YouTube)とヴィメオ(Vimeo)で公開。最初の一週間で6000万人もが閲覧した。ラッセル氏は米国が中央アフリカ地域に兵を送り、ウガンダ軍と協力して、コニーを逮捕することを全面支持。

ビデオでラッセル氏は、コニー逮捕に「成功すれば、人類の歴史が方向転換する」(If we succeed, we will change the course of human history)と力説する。

ここで素朴な疑問。

疑問一。コニーは2006年にウガンダを出て、中央アフリカ共和国にいるとされているが、アメリカ政府・軍がウガンダ政府・軍と協力し、中央アフリカ共和国に潜行する人間を捉える? これって、例えば、麻原彰晃が北朝鮮に逃亡してしまったので、アメリカと日本が北朝鮮に軍隊を送るのと同じノリ。国際法的に見て、そんなことが許されるのか? アメリカ政府が急に熱心になったのは、ウガンダで石油が見つかったから、という見方もある。

疑問二。コニーが率いる「兵士」は僅か数百名にまで減っている。そんな団体を壊滅させ、リーダーを逮捕することが、「人類の歴史が方向転換する」ことにつながるのか?

疑問三。「誘拐された子供たちを取戻し、親元に返す」と単純に言うが、子供たちの親や家族の多くは殺されている。また、親を殺害し、少女をレイプし、罪もない市民を殺したり拷問したりすることを強要されてきた子供たちは、釈放されたからといって、簡単に社会復帰できるだろうか。精神のケアが必要ではないか。

また、英『ガーディアン』(Guardian)誌は、ラッセル氏が主宰する団体「Invisible Children Inc.」(見えない子供たち法人)の不明瞭会計を指摘する。同団体の2011年の収支報告によると、1年間の寄付金に880万ドルのうち、ウガンダ国内での学校の修復、建設といったNPO本来の活動には30%ほどしか使われていないというのである。

個人的にカチンと来たのは、「自分たちは常に正しく、世界を導くのはアメリカである」という典型的なアメリカ的態度。私がアメリカに住んでいた1980年代後半から1990年代前半にも切実に感じた。南アフリカのアパルトヘイトや日本の捕鯨など、遠い国の批判・非難は率先してやるのに、アメリカ自身が手を染めた中南米諸国やアメリカインディアンに関しては沈黙を守る、偽善に満ちた態度だ。

事実、ウガンダの人々はこのビデオに怒っている。

2012年3月、北ウガンダの町リラ(Lira)で上映された時、集まった3万5千人の市民は罵声を投げかけ、怒りの余りスクリーンに石などを投げた。地元のラジオ局では、市民からの怒りの電話が鳴り止まなかった。

コニーが去って6年経った北ウガンダでは、既に平和が戻り、市民は一致団結して地域の再建にいそしんでいる。それなのに、このビデオはウガンダがまだ内戦で苦しんでいるように描いているというのだ。このビデオが重視するのは「ウガンダ人ではなく白人」と、ウガンダ人は感じているのである。先進国の自己陶酔に過ぎない、と。

豊かな自然を利用して観光立国を狙うウガンダにとって、ネガティブなイメージは迷惑この上ない。

遂に、アママ・ムババジ(Amama Mbabazi)大統領がユーチューブで「KONY 2012」に反論するまでに至った。要点をかいつまめば、「心遣いは有難いが、本音は有難迷惑」。


このブログを書き終わった時点で、「KONY 2012」のビューアーは8211万5079人。情報の伝達が早いのは、フェイスブックやユーチューブなどのソーシャルメディアの利点でもあるが欠点でもある。

踊らされる人がこれ以上増えないことを望む。

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