2017/09/26

サイの角の密輸最新トレンド ブレスレッドなどに加工

野生動物取引をモニターする世界的NGO「TRAFFIC」が今月、"PENDANTS, POWDER AND PATHWAYS:A rapid assessment of smuggling routes and techniques used in the illicit trade in African rhino horn"(ペンダント、粉、経路 ~アフリカサイの角の違法取引に使われる密輸経路と手口に関する概説)という報告書を発表した。



サイの角の密輸形態に変化があるという。

サイの角は国際取引が禁止されているから、産出国のアフリカ諸国から消費国のアジア諸国に送るには密輸しかない。これまでは、角の形のまま、うまく隠して送るのが一般だ。

サイの角 密輸経路 2016年‐2017年6月に把握されたもの(TRAFFICの報告書から)

しかし、サイの角はデカい。隠すのはなかなか大変である。

昨年マレーシアで押収され、記者会見の席に展示されたサイの角(The Citizen

これは電気コイルの中に隠した例。チェコの捜査官が見つけた。

TRAFFICの報告書から)

詰めやすいよう角を輪切りにし、いくつかのフライトに分けて持ち込んだ例もある。これは2015年7月26日と27日、モザンビークからの便で送られれ、香港で見つかり押収されたもの。2本の角をそれぞれ5つに輪切りしている。

右側の写真は、輪切りにしたものを元のように積み重ねたもの(TRAFFICの報告書から)

ところが最近、見つけにくくするために、加工して送る例が増えている

これは、色を塗って、彫像の台座に見せかけたもの。

TRAFFICの報告書から)

更に、ブレスレッドなどのアクセサリーに加工し、牛類の角アクセサリーとして持ち込もうとしたもの。

TRAFFIC

加工の際、削られしまった破片は粉にして密輸する。アジアでは1キロ6万ドルもの高値で売れるから、破片を捨てるなんて勿体ないことはしない。「薬」として用いるには、どのみち粉にするんだし・・・。

TRAFFICの報告書から)

絶滅の危機に瀕しているのに、サイの密猟に歯止めがかからない。

アフリカのサイの79%が南アフリカに生息する。2016年、アフリカ大陸で密猟されたサイの91%が南アフリカだった。クルーガー国立公園のレンジャーによると、同公園では常時30-40の密猟グループが活動しているという。そこまでわかっていても、取り締まれない。そんなに多くの密猟グループが、大手を振ってサイを殺戮している。

ジンバブエで密猟者に殺されたクロサイ。生きたまま顔をえぐることもしばしば(TRAFFIC

過去10年に7100頭以上のサイが密猟により命を落とした。野生に生きるのは、アフリカ大陸全体で約2万5千頭のみ。

サイの角の需要理由ナンバーワンは「」。だが、サイの角の成分はツメと同じケラチン。もちろん、媚薬にもならなければ、ガンにも効かない。

また、国際取引が禁止され、しかも超高価な貴重品ということから、「ステータスシンボル」として入手したがる金持ちが増えているらしい。

「サイの角にはまったく薬効がない」「サイの角を持つなんてクールじゃない」という啓蒙活動・意識改革を進めることが必至だが、それには時間がかかる。取りあえずの策として、「供給を増やすことにより価格を引き下げ、密猟の旨味を失わせる」という手もある。サイの角は鹿の角同様、切っても伸びてくるので、サイ農場を経営して、定期的に角を切って市場に出すというやり方である。

実は、実行している人がいる。南アフリカのサイ・ブリーダー、ジョン・ヒューム(John Hume)さん。ジョハネスバーグ郊外に、世界最大のサイ農場を持つ。飼っているサイは1500頭。

ヒュームさんと農場のサイたち(Fights for Rhinos

南アフリカではサイの角の売買は違法だ。ヒュームさんは裁判所に訴え、環境大臣から許可を取りつけた(違法なのに、そんなに簡単に許可が出るものなのか。ちょっとびっくり)。そして、264本のサイの角を2017年8月23日から25日の3日間、オンラインオークションにかけた。顧客は中国人とベトナム人。

ヒュームさんの行為は自然保護活動家から大きな非難を浴びた。「密猟に拍車をかける」というのがその理由。だが、レンジャーが取り締まりをする方法でまったく密猟が減らない現状を考えたとき、非難する人たちに妙案があるとも思えない。

ヒュームさんちのサイは角がほとんどないので、密猟者に狙われないという。サイに鎮静剤を与え、角を切るのにかかる時間は最大15分。また、欧米のハンターから大金を受け取って、サイを殺させる商売をする農場が多い中(南アではサイの狩猟は合法)、ヒュームさんの農場では「殺し」は一切行わない。

理想的な筋書は、サイ農場が増えることで角の価格を下げ、密猟を減らす。その一方で、消費者の啓蒙活動・意識改革を進めて需要を減らす。そして、最終的にはサイの角に買い手がなくなり、サイ農場もなくなる・・・。

サイの角はサイだけのもの。人間の関わりは、野生で生きるサイの姿を感嘆して眺める程度にすべきだと思う。


【参考資料】
"PENDANTS, POWDER AND PATHWAYS:A rapid assessment of smuggling routes and techniques used in the illicit trade in African rhino horn"
"Rhino chop shops" The Time (2017年9月18日)
"Rhinoceros horn online auction: few buyers after outraged protests" The Guardian (2017年8月27日)
"Sold to the top bidder" The Time (2017年8月22日)

【関連ウェブサイト】
TRAFFIC(本部)
TRAFFIC(日本)
ヒュームさんのオークションサイト

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