2015/04/19

収拾のめどがつかない外国人襲撃にアフリカ諸国が立ち上がる

ゼノフォビア」(xenophobia)という言葉をご存知だろうか。

「ゼノ」(xeno)は「外来の、 異質の、 異種の」、「フォビア」(phobia)は「恐怖症、 病的恐怖、 病的嫌悪」を意味する。つまり、「ゼノフォビア」(xenophobia)とは「外来者・外国人恐怖症、外国(人)嫌い」。リーダーズ英和辞典には「外国[未知]の人[もの]に対する嫌悪・憎しみ・恐怖」とある。

ゼノフォビアという言葉は、南アフリカではかなり特定した使い方をされている。「アフリカ諸国からやってきた黒人に対する、南アフリカ黒人による差別・偏見・暴力」を表す婉曲表現なのだ。ここ数年よく耳にする言葉である。日常的に小さい事件が都市部で起こり、数年に一度、大きな襲撃事件が連発する。大抵の場合、理由にもならないようなちょっとしたことがきっかけだ。きっかけがはっきりしないこともしばしばである。

最初に「ゼノフォビア」が大きく取り上げられたのは、10年くらい前だったと記憶している。モザンビーク人やジンバブエ人が襲撃され、各地に難民キャンプが設立された。

アパルトヘイト時代のアフリカ人外国労働者といえば、レソトなどからの鉱山労働者が殆どだった。それが、アパルトヘイトが終わって、モザンビークやジンバブエなどから出稼ぎにやってくる貧しい人々が急増した。住むところは貧しい南アフリカ人の居住地。国に残した家族に仕送りをしようと必死だし、不法滞在のため法的保護がないから、低賃金でよく働く。また、仕事が見つからず、犯罪に走る者も一部にいる。それが貧しい南ア人の隣人の目に「南ア人の仕事を奪っている」「南アにやってきて犯罪を犯している」と映った。スワジランドやレソトからも出稼ぎ者は多いが、スワジ族やレソト族は南ア人にもいるのであまり目立たない。更に、合法的に働く者も多く、必ずしも貧困地域に住んでいない。しかし、南ア人と同じ場所に住みながら、言葉や習慣が多少違うモザンビーク人やジンバブエ人は、ジョハネスバーグなどで恰好の標的となった。

ケープ地方で大きな被害に遭ったのはソマリア人だった。個人でやって来て不法滞在し、農場労働者や一般家庭の庭師として日銭を稼ぐモザンビーク人やジンバブエ人と違い、ソマリア人は組織化・団結して商売する。ひとりひとりは小さな商店を経営するものの、仕入れはコミュニティで行なうため、卸売業者相手に値段交渉が出来る。安く仕入れた商品を南ア黒人相手に安く売る。安いので人気が出て、商売が繁盛する・・・という仕組みである。アパルトヘイト時代、黒人居住区での商店はインド系南ア人経営と相場が決まっていたが、現在はソマリア人やパキスタン人などが主に行っている。

商店襲撃は貧しい住宅襲撃以上のメリットがある。商品を盗む、という特典(?)付きなのだ。そして、宗教も言葉も習慣も南アフリカ人とは全く違うソマリア人は、モザンビーク人やジンバブエ人以上に異邦人感があるため、襲っても罪悪感が少なくてすむ。

ダーバンで約3週間前に始まった今回のゼノフォビアは、これまでになく険悪だ。ダーバン市内にあるアフリカ人経営の商店などが襲撃され、ダーバン地域から数千人のアフリカ人が家を追われた。

最近、アフリカ人襲撃はダーバンからジョハネスバーグに飛び火した。ソマリア人やモザンビーク人が経営する商店(10年前と違い、モザンビーク人が経営する商店が増えてきた)や、アフリカ諸国民の住居が襲われ、今日までに7人が命を落とした。貧しい本国で仕事がなく、なんとか生き延びようと南アフリカにやってきた人々は、着のみ着のまま命からがら家から逃げ出し、取りあえず屋外で夜を過ごしている。

ズマ大統領が暴力を止めるよう呼びかけたが、聞く耳を持つ者はいない。南ア政府はナイジェリア、ソマリア、マラウィ、モザンビーク、エチオピアの外交官に各国市民の安全を保証したが、暴力は後を絶たない。ダーバンではゼノフォビアに反対する行進が行われたが、アフリカ移民に反対する人々は「我々の女、仕事、土地が奪われている」とあまり根拠のない反論を続ける。ズールー族のズウェリティーニ(Zwelithini)王に至っては、南アの問題はアフリカ諸国からやってきた「外国人」のせい、と襲撃を煽り立てる始末。

政府も警察も一般市民も無力の事態を前にして、遂にアフリカ諸国が立ち上がった。ソマリアとマラウィは自国民を南アから脱出させることを決めた。モザンビークでは南アの会社が所有するバスに石が投げられ、南ア企業「サソル」(Sasol)で働くモザンビーク人労働者が、「南ア人労働者は南アに帰れ!」と要求しストに突入した。マラウィの公民権活動家たちは、南ア人経営の商店と南ア商品のボイコットを呼びかけている。ナイジェリアの国会議員は、同国の南ア駐在大使の本国召還を求めた。

ヴィッツ大学(University of the Witwatersrand)アフリカセンターのリサーチャー、ジーン・ミサゴ(Jean Misago)によると、南アのゼノフォビア暴力に対する反応がアフリカ諸国内で起こったのは史上初めて。「(アフリカ諸国民は)もう我慢できないと感じている。今回、問題は南アフリカの国境を越えて大陸に広がりつつある。大問題に発展する可能性がある」という。大きな国際政治問題を引き起こすばかりでなく、アフリカ各地に進出している南ア企業にとっても困った事態になり得る。


ふと思い出したのは、辛口でユーモアあふれた政治批判で有名なファーストフードチェーン「ナンドーズ」(Nando's)が2年前に打ち出した素敵な広告。「南ア人は外国人排斥を求めているけれど、南アに住む殆どの人々は他の土地からやって来た外国人」という主張を面白おかしく表現している。

「南アフリカの問題は外国人。自分の国に戻るべきだ」というナレーションの後、国境を不法に渡ってきたモザンビーク人かジンバブエ人が「ポン!」と煙になって消える。

次のシーンでは、市内で列に並ぶ人々がナレーションに合わせて消え去る。「カメルーン人(ポン!)、コンゴ人(ポン!)、パキスタン人(ポン!)、ソマリア人(ポン!)、ガーナ人(ポン!)、ケニア人(ポン!)」

夜、金持ちっぽい白人カップルの車の外に立つのは、麻薬販売人っぽいナイジェリア人。ナイジェリア人も白人も「ポン!」「ポン!」

インド系南ア人も、中国人も、南アフリカに300年以上住む白人のアフリカーナも、ポン!。遂には、南アフリカの黒人たちも・・・。

「僕はどこにも行かないよ」と残ったのはサン族だけ。そして、「本当の南アフリカ人は多様性が大好き」(Real South Africans love diversity)と新製品を紹介して締めくくる。


さすがナンドーズ! (このコマーシャルは残念ながら放送禁止になってしまった。尤も、ナンドーズにとって、広告の放送禁止なんて珍しくもないが。。。)

それにしても、暴動化した南アフリカの黒人が多様性の素晴らしさ、大切さに気がつくのは一体いつのことか。

(参考資料:2015年4月18日付「The Star」、4月18日付「Saturday Star」、4月19日付「Sunday Times」など)

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1 件のコメント:

  1. 今朝(4月20日)の「The Times」紙によると、南ア政府・アフリカ諸国政府が4月18日(金)からアフリカ諸国民をバスで本国に送り届けはじめ、既に1000人以上が南アを去ったそうです。

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