2016/11/20

お値段7万7千円から 南アの契約殺人

日本で殺し屋を雇うと、一体いくらくらいかかるのだろう。

そんなことを思ったのは他でもない。南アフリカにおける研究結果が、世界的に権威のある学術誌に発表されたからだ。


論文の題は「The Commercialisation of Assassination: Hits and Contract Killing in South Africa 2000-2015」(暗殺の商業化:2000年ー2015年の南アフリカにおける暗殺と契約殺人)。掲載された学術誌は「African Affairs」。ロンドンに本部がある「ロイヤル・アフリカン・アカデミー」(Royal African Academy)の季刊誌で、オックスフォード大学出版局(Oxford University Press)が発行している。

ケープタウン大学(University of Cape Town)のマーク・ショー(Mark Shaw)教授と博士課程の学生キム・トーマス(Kim Thomas)が分析に使ったのは「メディア」。2000年から2015年までの16年間に報道された、暗殺や暗殺未遂1000件以上のデータベースを作成したのだ。もちろん、誰にも知られず殺され、報道されなかったケースも数多くあるだろう。

マーク・ショー
キム・トーマス

アパルトヘイト時代の南アでは、暗殺や契約殺人は珍しいものではなかった。アパルトヘイト政府が解放運動の活動家を殺害しただけでなく、解放運動内部でも、「問題」と見なされたり、政府のスパイと疑われたりして殺された人がたくさんいる。いずれにせよ、アパルトヘイト時代の暗殺の多くは、政治を動機とした、組織によるものだった。

それが変わったのは1994年。アパルトヘイトが終わり、民主総選挙が行われ、アフリカ民族会議(ANC)が政権を取ってからのことだ。イデオロギーの違いを原因とした政治組織による暗殺から、個人が政治的経済的利益を得るために殺し屋を雇うことに変化したのだ。そして、人を使って殺することで問題を解決しようとする事例が、近年増えているという。

南アにおける暗殺・契約殺人は、主に4つのカテゴリーに分けられる。

A1.タクシー業界に関連したもの
A2.政治的動機によるもの
A3.犯罪組織、非合法市場に関連したもの
A4.個人や家族に関する事柄を動機としたもの

カテゴリーの境界線は曖昧という。例えば、入札問題で恨み(A4)を持った人間が、公職につく担当者(A2)を人に頼んで殺した場合、A2とA4の両方の要素を持つ。

A4に含まれるのは、泥沼の三角関係を解消するためとか、保険金を手に入れるためなど。子供が殺し屋を雇って、実の親を殺させたケースもある。意外なところでは、パンの流通業界で何年にもわたり暗殺が繰り返されている。また、教員組合が校長職や教員職を金で売っていたスキャンダルが昨年末明るみに出たが、それに関連しての暗殺事件があったという。(教職は6万円くらいから、校長職は30万円くらいで買えた。資格がなくても能力がなくても、金さえあれば教師や校長になれるなんて、道理で教育のレベルが向上しないわけだ。)

では、人を殺してもらうのに、一体いくらくらいかかるのか。

これが結構安い。1万ランド(現在の為替レートで7万7千円)で人が殺せるという。殺し屋の需要が増加しているのに、料金は下がっているというのだ。

その理由は、殺人を請け負う人間が多いこと。

それではなぜ、殺人の請け合い人が多いのか。主な理由は3つ。

B1.アパルトヘイトの負の遺産。解放運動に従事し、軍事訓練を受けた人間がまだ多数生きている。
B2.暴力的なタクシー業界やギャング団が殺し屋を生み出す温床となっている。
B3.失業率が高く、貧困層が多いことから、金のためならなんでもやる人間がたくさんいる。

当然、殺し屋としてのレベルも違う。

C1.プロの殺し屋。一番料金が高い。被害者はある日突然姿を消し、どうなったのか誰も知らない。
C2.中クラスの犯罪者。金目当てや、犯罪者としてのキャリアアップのため、タクシー業界や犯罪組織やギャング団の殺し屋となる。
C3.経済的に困窮した素人。個人的な動機(A4)の契約殺人に雇われることが多い。逮捕されたり、ニュースになることが一番多い。

A4ではまた、殺しを頼んだ相手が実は覆面警察官だったり、殺しを頼まれた人が警察に通報する例がよく見られる。

マイク・ショーがインタビューした、素人ではない殺し屋たちの話では、「象徴としての殺し」が意味を持つという。つまり、「殺されるかもしれない」可能性を被害者に感じさせることが大切らしいのだ。そのためには、闇雲にただ殺すのはまずく、時々暗殺するのが正解。まあ、実際に命を奪うことなく、目的が達成できればそれに越したことはないのだろう。

しかし、こんな研究がちゃんとできてしまうほど暗殺や契約殺人の事例が多いなんて、あまり自慢できる国ではないなあ。

【参考資料】
2016年1月17日付"Hitmen now 'on special'"(The Times
2016年11月18日付"Rise of the hired hitman: assassinations and democracy in SA"(News 24)など

【関連HP】
African Affairs
Oxford University Press
Royal African Society

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