2017/07/25

映画『The Promise』(ザ・プロミス~約束) 美しくて悲しすぎる一大歴史ドラマ



The Promise 
2016年

監督 
テリー・ジョージ(Terry George)

主演 
オスカー・アイザック(Oscar Isaac)
シャーロッテ・ルボン(Charlotte Le Bon)
クリスチャン・ベイル(Christian Bale) 

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「20世紀初頭のトルコを舞台にした映画」程度の認識だけで映画館に入った。トルコは好きな国だし、主演のオスカー・アイザックは『アメリカン・ドリーマー 理想の代償』(A Most Violent Year)の演技が素晴らしかった、個人的に注目している役者だし、クリスチャン・ベイルはまだ12歳くらいだった『太陽の帝国』(Empire of the Sun)以来、幅広く徹底した役作りに脱帽していた役者だし、監督は『父の祈りを』(In the Name of the Father)の脚本、『ホテル・ルワンダ』(Hotel Rwanda)の監督を担当したテリー・ジョージだし、見る価値はあると思ったのだ。

そして・・・見てよかった! 感動のあまり、後半は泣き通しだった。。。

イングリッシュ・ペイシェント』(English Patient)を彷彿とさせる、一大歴史ドラマ。歴史に翻弄されながらも、愛と信念に忠実に、一生懸命生きる3人の主人公はいずれも魅力的。IMDb(インターネット・ムービー・データベース)で10点満点をつけてしまった。なによりも心にズキっときたのは、ベースとなっている史実だ。

第1次大戦中のオスマン帝国によるアルメニア人大虐殺被害者150万人と推定されている。

アルメニア共和国(Wikipedia


紀元前4000年には既に文明が栄えていたという、古い歴史を持つアルメニア。2010年と2011年の調査で、世界最古の革靴、スカート、ワイン製造施設が発見されている。紀元301年には世界で初めてキリスト教を国教とした。しかし、その後、サーサーン朝ペルシア、セルジューク朝トルコ、モンゴルなどに侵略され、遂に1636年、オスマン帝国とサファヴィー朝ペルシアに分割統治されることになり、アルメニア人は国を失う。(ペルシア領アルメニアは1828年にロシア領となる。)

その後、オスマン帝国滅亡までの約300年間、アルメニア人はトルコ人に差別・虐待されてきた。(オスマン帝国崩壊後はソ連に併合され、ソ連解体後の1991年、漸く共和国として独立し、アルメニア人の国が再興された。)

1894-97年の「ハミディイェ虐殺」(Hamidian massacres)では10万人から30万人、1909年の「アダナの虐殺」(Adana massacre)で1万5千人から3万人のアルメニア人が殺された。

しかし、第1次世界大戦中の大虐殺は桁が違う。歴史学者でアルメニア人虐殺の権威、アラ・サラフィアン(Ara Sarafian)によると、第1次大戦直前、オスマン帝国には約170万人のアルメニア人が住んでいたのが、1917年には28万4157人に減少。人口の8割以上が抹殺された計算になる。まさに、「ジェノサイド」(genocide)=「民族皆殺し」政策である。

(大規模な戦争に携わっている時、国内の少数民族を皆殺しする余裕はないようなものだが、オスマン帝国のアルメニア人大虐殺は第1次世界大戦中、またナチスドイツによるホロコーストは第2次大戦中のことだった。国外での大戦争と国内での大虐殺の間に関連性はあるのだろうか?)

映画としての出来栄えが見事な上に、一般にあまり知られていないアルメニア人の辛くて悲しい歴史を学び、色々考えされられた。出来るだけ多くの人に観てもらいたい映画である。(この映画は残念ながら、アメリカではまったく受けなかった。9000万ドルの製作費に対し、興行収入わずか820万ドル。)

更に、映画の最後の曲が素晴らしい。せつなく胸を締めつけられる。歌っているのは誰・・・? 

クリス・コーネル(Chris Cornell)。この映画のために書き下ろした曲だった。

ところが!クリス・コーネルはつい2か月前の2017年5月18日に自殺していた! うつ病だったという。享年52歳。この曲が人生最後のシングルとなる。グループとソロでのアルバム売り上げ計3千万枚以上、グラミー賞ノミネート14回(受賞は2回)という輝かしい経歴を誇るミュージシャンだった。

クリス・コーネル 1964年7月20日‐2017年5月18日(Wikipedia

自分の命は自分のもの。テロリストによる自爆は他人に迷惑がかかるが、社会や家族に迷惑がかからなければ、自分の意志で自分の命を奪うのは個人の自由だと思う。

しかし、そうは言っても、クリス・コーネルやロビン・ウィリアムズ(Robin Williams)のような、才能に溢れ、何百万人ものファンに愛され、世間的には大成功した人が、うつ病など心の病に苦しみ、自らの手で寿命を縮めるのは悲しい。自分を過剰評価する人間がたくさんいる一方で、世界中から称賛される才能が自分では認識できない人たちもいる。。。

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こちらがクリス・コーネルによる主題歌「The Promise」のオフィシャルビデオ。売り上げ収益はすべて、アインシュタインの要請により1933年に設立された難民援助団体「International Rescue Committee」(IRC)に寄付されるという。是非サポートしてあげてください。



【関連ウェブサイト】
International Rescue Committee

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