2017/10/18

ロッシーニのシンデレラ METライブビューイング

METライブビューイング(Metropolitan Opera Live in HD)今シーズン最後の出し物は、ジョアキーノ・ロッシーニ(Gioachino Rossini)の『チェネレントラ』(La Cenerentola)。童話『シンデレラ』をオペラ化したもの。

といっても、子供向けのオペラではない。妖精のお婆さんとか、カボチャの馬車とか、12時までの時間制限は出てこない(以上はディズニーのアニメ版のお話)。ロッシーニは魔法の要素をなくし、大人向けの素敵なロマンチックコメディーに仕上げている。3週間でこのオペラを書き上げた時、ロッシーニは弱冠25歳。前年に発表した『セビリアの理髪師』(Il Barbiere di Siviglia)が大ヒットし、ノリに乗っていた時期だ。

主人公はアンジェリーナ(Angelina)。いいところのお嬢さんだったが、寡婦になった母親がドン・マニフィコ(Don Magnifico)と再婚したことから、運命が狂ってしまう。落ちぶれた男爵ドン・マニフィコには先妻との娘、クロリンダ(Clorinda)とティスベ(Tisbe)がいる。いずれも高慢で我儘で贅沢好き。ドン・マニフィコはアンジェリーナの母親が亡くなった後、実の娘に贅沢をさせるため、アンジェリーナが受け継いだ遺産を勝手に使い果たした。ソファもボロボロの家に住む男爵はメイドも雇えないらしく、アンジェリーナを召使いとしてこき使い、ボロを着たアンジェリーナを「チェネレントラ」(灰かぶり)と呼んで馬鹿にしている。(暖炉の掃除などで、灰だらけになってしまうのだろうか。)おとなしくて心優しいアンジェリーナは、いつかこの環境から抜け出ることを夢見つつも、黙って耐えている。

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一方のラミーノ(Ramiro)王子。後継ぎを心配する重病の父王から「すぐ結婚しなければ勘当する」と脅され、しぶしぶ嫁探しをしている。「愛していない相手でも、この際仕方がない」と嘆きながら、宮殿で舞踏会を開き、一番美しい娘と結婚することにした。勿論、「一番美しい」といっても、小作民の娘が玉の輿に乗るわけではなく、貴族や有力者しか対象にならないのだろう。王子の家庭教師を務める哲学者のアリドーロ(Alidoro)が乞食に身をやつし、家族構成を記録した台帳を頼りに、適齢期の娘がいる家庭をまわって下調べをしている。

ドン・マニフィコの家でアンジェリーナの心優しきに感銘を受けたアリドーロは、「素晴らしい娘がいる」と報告。ラミーノ王子は自分の目で確かめようと従者のダンディーニ(Dandini)と服を取り換えて、ドン・マニフィコ宅へ出向く。

ドン・マニフィコ父娘はラミーノ王子のふりをするダンディーニの心を掴もうとやっきだが、従者(実は王子)のことは邪険に扱う。そして、本物のラミーノ王子とアンジェリーナは恋に落ちてしまう。王子はアンジェリーナをドン・マニフィコの召使い、アンジェリーナは王子を従者だと信じて。。。

「娘が3人いるはず」というアリドーロに対して、ドン・マニフィコは「3人目の娘は死んだ。アンジェリーナは単なる召使い」と主張。アリドーロは納得せず、こっそりアンジェリーナに美しいドレスをプレゼントし、宮殿の舞踏会へ送る。 アンジェリーナの美しさに夢中になった王子(実は従者のダンディーニ)は求婚するが、アンジェリーナは「私が愛しているのはあなたの従者」と断る。そして、従者(実は王子)に「私はあなたが思っているような者ではない」と、ペアになった腕輪のひとつを渡し、「私を探し出して。そして、本当の私を見ても、あなたの気が変わらなかったら、私はあなたのもの」と伝え立ち去る。。。

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アンジェリーナを演じるのは、ジョイス・ディドナート(Joyce DiDonato)。1969年2月13日、カンザス州で生まれたアメリカ人のメゾソプラノ(アンジェリーナ役は、メゾソプラノより声域が少し低いコントラルト)。オペラ歌手になって初めての主役がアンジェリーナだったという思い出深い役だ。その後、世界中のオペラハウスでこの役を演じて来たが、今回のメットが最後となる。どういう理由か、もうアンジェリーナを演じないというのだ。(純真で可憐で恐らくティーンエージャーのシンデレラが、皺が目立ってきた45歳では無理があると感じたのだろうか?)

ラミーノ王子役はフアン・ディエゴ・フローレス(Juan Diego Flórez)。1973年1月13日、ペルーのリマで生まれたテノール。甘いマスクと美しい高音で有名。子供の頃、お母さんが経営していた生演奏付き酒場で、病気の歌手の代役を務めた。ペルーの民謡からエルビス・プレスリーまで、観客の要望に応じてなんでも歌ったという。当初はポップ歌手を目指したというが、この顔とこの声だったら、ポップ歌手としても成功しただろう。王子としても、従者としても、説得力がある演技力。

その他のキャストも素晴らしい。歌唱力は勿論のこと、コミカルな演技力が輝いている。特に、クロリンダ役のラシェル・ダーキン(Rachelle Durkin)とティスベ役のパトリシア・リスリー(Patricia Risley)はぴったり息があった絶妙のタイミングで、いじわるなママ姉を生き生きと演じている。

残りの主な3役は、

アレッサンドロ・コルベッリ(Alessandro Corbelli)《ドン・マニフィコ》
1952年トリノ生まれのイタリア人。バリトン。

ピエトロ・スパニョーリ(Pietro Spagnoli)《ダンディーニ》
1964年ローマ生まれのイタリア人。バリトン。

ルカ・ピザローニ(Luca Pisaroni)《アリドーロ》
1975年ベネズエラ生まれのイタリア人。バスバリトン。

とにかく楽しかった。「オペラはお高くとまった退屈なもの」と思っている人も、これを観れば絶対気が変わる今度ニューヨークに行ったら、メットに立ち寄って、絶対DVDを購入するぞ!

今シーズンのMETライブビューイングは10演目中7つを鑑賞し、いずれも大満足だった。来シーズンのMETライブビューイングは10月から。待ち遠しい4か月だ。幕開けはヴェルデ(Verdi)の『マクベス』(Macbeth)。2015年4月まで、全12演目が上演される予定。日本での上映は、日本語字幕付きとのこと。

最後に、『チェネレントナ』のドレスリハーサルとアンコールの映像を紹介する。

結婚式でのアンジェリーナ。
 


  娘のひとりが王子と結婚することを夢見るドン・マニフィコ。

 「あの娘を探し出して見せる」と歌うラミーノ王子。


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✤この投稿は2014年6月16日付「ペンと絵筆のなせばなる日記」掲載記事を転載したものです。

【関連ウェブサイト】
METライブビューイング2013-14(日本語)
Joyce DiDonatoのホームページ
Rachelle Durkinのホームページ

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