2014/06/06

学校数も児童数も把握していない! お粗末な州政府と基礎教育省

今週末、南アフリカをこの冬初めての寒波が襲った。ジョハネスバーグでも、3日前までは最高気温が25度くらいあったのに、今日はいきなり最高気温9度、最低気温2度の予報。今朝の『タイムズ』紙の一面トップ見出しは「Winter of discontent」。

新聞の見出しは、単刀直入に要点を挙げるのが普通。「不満の冬」って、曖昧過ぎない?

実は、この見出し、シェイクスピアの『リチャード3世』(Richard III)の有名な出だしなのだ。

Now is the winter of our discontent
Made glorious summer by this sun of York

日本人にとって、「祇園精舎の鐘の声・・・」とか、「つれづれなるまゝに、日ぐらし硯に向かひて・・・」とか、「ゆく河の流れは絶えずして・・・」とか、古典の出だしを学生時代暗記したのが一般教養の元となっているように(皆さん、暗記しませんでした?)、英語圏の国々では、シェイクスピアや聖書の引用が新聞記事や小説や映画などに何の説明もなく現れる。「知っていて当然」なのだ。

南アフリカでは、アパルトヘイトが終わり、黒人政権が樹立してから20年経つが、初等中等教育の質が向上しないどころか、益々ひどくなっているし、文化のアフリカ化を目指す風潮(ベンツやローレックスは好きなくせに、クラシック音楽やバレーは駄目)と政府の政策のとばっちりで、イギリスの古典なんか勉強しないだろうなあ。大体、教科書が生徒の手元に届く届かないとか、先生が学校に来る来ないとかが取沙汰されているレベルだもの。

だが、南アフリカでは「世界レベルの・・・」(world-class)という表現が良く使われる。ジョハネスバーグ市のキャッチフレーズは「世界レベルのアフリカの都市」(a world-class African city)だ。そんなに世界を気にするなら、「英語を話す国際人」の教養として、有名な引用くらい学校で覚えさせればよいのに・・・。

・・・などとひとり感慨にふけっていたところ、南ア教育界の実態はそんなものではないことがわかった。古典なんて、問題外。ずっとずっと深刻なのだ。

2012年に教科書不配達問題が浮上した後、「南アフリカ人権委員会」(South African Human Rights Commission)が学校と行政の実態調査を行った。その結果が最近発表され、地方の学校や州政府の管理運営状態のお粗末さが明らかになった。

殆どの州政府は、
  • 州内に学校がいくつあるか把握していない
  • 何人の児童・生徒が学校に行っているのか把握していない
  • どの言語を使って授業が行われているのか把握していない。(南アフリカには公用語が11ある。)
  • 教科書購入用予算を教師の給料に使っている
  • きちんとした教科書配達の記録がないため、実際の配達数より多く配達したと主張している

多くの田舎の学校は、
  • 教科書購入代金を出版社に支払っていない
  • 翌年の生徒数を予測することが出来ず、そのため、教科書を何冊事前に注文すれば良いかわからない
  • 電話もインターネットもないため、教科書の電話注文、ネット注文ができない
  • 新年度に間に合うよう教科書を注文しない、または最初から教科書を全く注文しない

そして、州政府のコンピュータは基礎教育省のコンピュータにリンクしていないため、基礎教育省は州レベルで何が起こっているか全く把握していない。たとえコンピュータがリンクされていても、学校がいくつあるか、生徒が何人いるかもわかっていないという有様では、現状把握など到底不可能だが。(しかし、これまで政府が発表してきた数字は一体何だったんだろう。。。)

アパルトヘイト時代、教育を規定する法律は人種別になっており、計4種類もあった。人種差別的な法律は1980年代後半から次々に撤廃されたが、教育関係の差別的法律が撤廃され、ひとつに統合された教育法が施行されたのは一番遅かった(確か1994-96年ごろ)。

マンデラ政権時代、教育を司っていたのは「教育省」のひとつだけ。それが、ズマ大統領により、「基礎教育省」(Department of Basic Education)と「高等教育訓練省」(Department of Higher Education and Training)のふたつに分けられた。どちらも、ひどい大臣が率いる。

教育を司る省がふたつになってしまったのは、大臣職を増やすためとしか思えない。ズマ大統領は「貢献」してくれた仲間に「ご褒美」をふりまくため、閣僚ポストを次々と増設しているのである。マンデラ大統領時に50名だった閣僚が、現在は73名もいる。

教育省がふたつになった弊害は大きい。基礎教育省にとって、「高校卒業資格試験の合格者数を増やす」ことが大きな目標となった。試験に受かり易くして、数を増やせばいいのだ。学生の質が悪くても、超低レベルの学生を大量生産して受け皿がなくても、困るのは大学。基礎教育省には関係ない。「関係ない」では困るのだが、そして絶対に「関係ない」ことはないのだが、アンジー・モチェハ(Angie Motshekga)基礎教育相の態度・行動から察する限りでは、そう考えているとしか思えない。

アンジー・モチェハ基礎教育相(Department of Basic Education

国家予算の2割以上が教育に割り当てられているというのに、南アフリカの学校教育が向上する気配は全くない。児童、生徒、父兄、大学、企業、そして社会は、教育界の長い「不満の冬」が終わり、春が訪れるのを根気強く待っている。

(参考資料:2014年5月30日付「The Times」など)

【関連ウェブサイト】
South African Human Rights Commission (SAHRC)

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