2010年11月、ケープタウン行のバスから、サイのツノ12本が見つかった。西ケープ州での道路検問で引っかかったのだ。そのうちの一本は大きすぎてスーツケースに収まらず、半分に切られていた。サイのツノの押収量としては、史上最大である。
逮捕されたのは25歳と32歳のベトナム人男性。
サイのツノは伝統的には媚薬、最近はガンや二日酔いの特効薬などとして、中国やベトナムで重宝されている。主な成分は爪や髪と同じケラチン。勿論、医学的効用はない。しかし、迷信のために乱獲が進み、サイは絶滅の危機にある。ワシントン条約で、サイのツノの取り引きは禁止されているから、殆どが密猟・密輸である。
南アフリカは他のアフリカ諸国よりサイの保護に力を入れてきたせいで、世界のサイの73%が南アフリカに生息している。しかし、近隣諸国で取りつくされた感があるせいか、それとも南アフリカで密猟がしやすくなったのか、またはその両方の理由からか、近年、南アフリカでのサイの密猟が増加している。
昨年一年間で、全国で668頭のサイが密猟により命を落とした。今年に入って4か月で、既に70頭以上が殺されている。
サイが殺されるのは、密猟だけではない。「猛獣狩り」ファン相手の合法的狩猟枠を、ツノ獲得に悪用するケースも多い。タイ人の売春婦などを「ハンター」として申請し、合法枠を使って狩猟許可を取り、ツノを取るために殺すのである(サイを「合法的」に「密猟」する方法)。絶滅の危機にある動物に、何故狩猟枠が割り当てられるのか、南ア政府の行動は不可解だ。
そこまでして、こぞってサイ殺害に乗り出すのは、需要があることに加え、逮捕される確立が低く、儲けが莫大だから。
サイの未来に関して暗いニュースが続く中、このベトナム人逮捕は珍しい朗報だった。
ところが、4月29日のことだ。30か月の拘留後、ふたりは釈放された。それも、法廷通訳が見つからない、という理由で。
通訳候補は2人いた。だが、ふたりとも「法務省の通訳として登録していない」ので採用されなかった。うちひとりは税金関係の書類不備で、登録できなかったらしい。
また、「登録していない人間しか、通訳候補がいなかった」というのは、「南アフリカの法廷通訳として登録しているベトナム語通訳はゼロ」ということか。
尤も、ベトナム人通訳が見つかったとしても、4月1日からコンピュータがダウンしているので、通訳の「発注」が出来なかったらしい。ということは、ベトナム語に限らず、通訳を必要とする裁判は出来ないことになる。必要とされる通訳は、外国語とは限らない。南アフリカには公用語が11もあるからだ。
ダウンしているコンピュータが通訳業務発注だけでなく、裁判所全体に及ぶものだったとしたら、国中の裁判が一か月も止まっているということになる。
大体、「通訳が見つからないから、起訴取り下げ」というのは、どんな犯罪にでも適用されるのだろうか。「強盗のうえ、一家皆殺し」とか、「連続殺人犯」とか、「何十人も強姦した」とかいう容疑者でも、「通訳が見つからないから起訴が取り下げられる」ということがあるのだろうか。
それとも、犯罪によって、適用範囲が異なるのだろうか。とすると、法務省はサイの絶滅を軽く考えていることになる。
どちらにしても、喜ばしくない。
この件に限ってみれば・・・警察は逮捕に成功した。裁判が行われていれば、有罪になっていたことだろう。それが、「通訳が見つからない」という、多少のお金を払えば解決できそうなことで、容疑者が釈放されてしまった。ベトナム語と英語の通訳なら、世の中に大勢いるだろうに、2年半もかかってひとりも見つけられないなんて、怠慢か無能としか考えられない。
サイの未来や、南ア司法制度の未来を思うと、一層悲しくなる出来事だった。
(参考資料:2013年5月1日付「The Star」など)
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