2014/03/03

働くアフリカのネズミたち 地雷撤去のヒーロー

ジョハネスバーグの交差点で物乞いをする人の中に、片手や片足のない男女を時々見かける。乞食を使って金儲けをするシンジケートが絡むと、腕のない人々が短期間、突然大量に交差点に現れることもある。多くは隣国モザンビークからの地雷の犠牲者だ。

身体をすべて吹っ飛ばしてしまう地雷は、見た目むごたらしいものの、本人にとっては一瞬の出来事。しかし、わざと威力を落とした地雷もある。手や足を吹き飛ばすには十分だが、殺すほどではない。生き残った人は兵隊としての戦力にならない。農地を耕す労働力にもならない。工場で働くのも大変。そして、家族や社会の負担になることから、「敵」の総合戦力低下に役立つ、という戦略だ。

「敵」といっても、内戦の場合、自国民である。自分の勢力が勝利を収め、政権を手にした時、国造りに貢献しにくいどころか、重荷になりかねない人を大量に作り出したツケは大きい。まあ、そこまで考えないんだろうなあ。

さて、戦争が終わり、平和が訪れた。しかし、内戦中、地面に大量に埋められた地雷のために土地が利用できない。また、知らずに踏みつけて手足を失ってしまう人々や、原っぱで遊んでいて命を落とす子供が後を絶たない。

現在、まだ世界66か国と7地域に地雷や不発弾が処理されないまま残っており、人々の安全を脅かし、国や地域の経済発展を阻んでいるという。顔の前に透明な防御マスク、上半身に防御ジャケットをつけた、イギリスの故ダイアナ妃の姿を覚えている方もいるだろう。亡くなる数か月前の1997年1月、「反地雷キャンペーン」の一環でアンゴラを訪問した時のものだ。

人間を訓練して派遣するのは莫大なお金がかかる。また、地雷除去をする人々は命がけである。

そこで、ベルギーのNGO「アポポ」(Apopo: Anti-Persoonsmijnen Ontmijnende Product Ontwikkeling)は考えた。ネズミを使えないかと。

候補に挙がったのは、「アフリカオニネズミ」(African Giant Pouched Rat)、学名「Cricetomys gambianus」。しっぽを含むと体長1メートル近くになる大きなネズミだ。(その半分は尾。)

訓練中のアフリカオニネズミ(Wikipedia
何故ネズミ、それもアフリカオニネズミを地雷撤去に使うことにしたのか? その理由は沢山ある。

まず、優れた嗅覚。匂いを分析する機器より優れた嗅覚を持っているため、一体どの匂いに反応しているかわからないほどのスゴサという。

2番目に、頭が良い。訓練することができる上に飽きっぽくなく、一旦作業を覚えると、喜んで何度でも繰り返す。更に、ネズミにしては寿命が長い。8年も生きるため、何年も貢献してくれる。

3番目に、体重が1キロと軽いため、人間や犬と違って、地雷を踏みつけても爆破する可能性がない。

4番目に、サハラ以南アフリカに広く分布している。地元のネズミなのだ。

5番目に、犬と違って、特定のトレーナーと個人的な絆を育むことがない。別の地域や別の国に送られて、トレーナーが変わっても柔軟に対処できるわけだ。

6番目に、メインテナンスコストが低い。ネズミの価格自体安いだけでなく、特定の食料や特別な環境などが必要ない。しかも繁殖が楽。更に、小さいため、移動が簡単で安価。

7番目に、身体が丈夫。新しい環境でもすぐ適応するから、健康で長生き。

・・・と良いことづくめである。

アポポの本部はタンザニアにあり、現在、モザンビーク、アンゴラ、タイ、カンボジアで活動中。

ネズミの訓練センターはタンザニアにある。生後4週間で訓練開始。訓練機関は9か月。ネズミによって性格がかなり違うらしい。元気いっぱいで、キカンキのネズミとか、おとなしくてすぐ言うことを聞くネズミとか、朝が苦手のネズミとか・・・。

一番難しいのが匂いのコントロール。間違った匂いに反応しないようにするため、訓練中、必要ない匂いを徹底して除去する必要があるが、人間には嗅ぎ分けることの出来ない匂いを感知できるので、ちゃんと完全除去できているかどうか人間にはわからない。できるだけのことをするしかない。

因みに、プロの地雷除去ネズミを訓練するのに、1匹当たり6千ポンドかかる。今日の為替レートで約100万円。維持費が安いといっても、訓練にお金がかかるから、おろそかに扱うことはできない。

アポポでは、地雷除去に加え、結核発見にもアフリカオニネズミを使っている。地雷の場合、火薬の主成分「トリニトロトルエン」(TNT: Trinitrotoluene)の匂いを探知するわけだが、結核では「結核菌」(Mycobacterium tuberculosis)の匂いを嗅ぎ分ける。結核菌にも匂いがあるんですね~。恐るべし、アフリカオニネズミの嗅覚!

ネズミというと、家庭では害獣扱いされて忌み嫌われ、「退治」「駆除」の対象になり、また実験動物として大量に繁殖させられ、想像するのもおぞましい化学実験などに使われているが、アポポの働くネズミたちは人命を救い、国の経済発展に貢献して感謝される上、大事に扱われ、健康のまま天寿を全うできる可能性が高い。動物好きには嬉しい話だ。

アポポで訓練を受けるアフリカオニネズミの姿は以下でご覧ください。(「人類のために働いている」という歌詞が鼻につくけど。)


何故かここにそのままアップできなかったが、こちらのユーチューブ画像では、「ヒーロー候補」の一日を見ることができる。早朝、眠い目をしばしばさせながら起きるところとか、うまく火薬を探し出して、ご褒美のバナナを貰って嬉しそうな顔とか、朝の訓練が終わって、トレーナーに駆け寄る子犬みたいな姿とか、宿舎に戻り、あ~疲れた、とあくびをして眠りにつく姿とか、可愛さ満点!

アポポのネズミを「養子」にすることも可能。「我が子」が訓練を受け、一人前の「ヒーローラット」となって活躍する姿をフォローすることができる。詳しくは、こちらを。

(参考記事:2014年3月2日付「Sunday Times」など)

【関連HP】
アポポ(Apopo)

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