2016/07/05

カナダの森林火災救助に駆けつけた南アの消防士 ほとんど働かないままスト

2016年5月1日、カナダのフォートマクマレー(Fort McMurray)で森林火災が発生した。5月3日には住宅街に広がり、約2400軒の家屋やビルが焼失。住民は安全を求めて逃げ出し、アルバータ州史上最大の避難民が生まれた。火災はその後も広がる一方。収まったのは6月中旬に雨が降ってのことだ。カナダ史上、最も被害総額が大きい自然火災となった。

避難する住民(Wikipedia


南アフリカの消防士301名が2週間の救助に駆けつけたのは6月上旬。エドモントン国際空港で歌い踊る雄姿が報道され、なかなか頼もしかった。



ところが、救援活動5日目の6月8日、南アの消防士たちはストに突入してしまう。民間企業の労働者はもとより、人命を預かる看護婦や、教育を司る教師や、囚人の警備に当たる看守や、市民の生活を守る警察官まで平気で違法ストをするお国柄とはいえ、異国の苦境を救うために派遣されていながら、仕事をそっちのけでストライキとはよほどの事情があったのだろうか。

・・・と思ったら・・・

ストの原因は、特別手当の支払い方法への不満! 給料に加え、一日当たり50カナダドルの特別手当が現地支給されると思い込んでいたところ、現地では1日15ドル、残りは南アに帰国してから支払われることを知り、頭にきてストに踏み切ったというのだ。食費と宿泊はアルバータ州政府が払っているから、現地で必要なお金はお小遣いだけ。しかも、2週間みっちり消火作業に取り組んでいて、それほど遊んでいる時間はないはず。それなのに、住民が家を失い、命からがら避難し、火災がいまだ広がる一方の大事な時期に、そんな理由でストを開始したのだ。

全額現地支給してしまうと、カナダにいる間に全部使ってしまって後に残らない」とは、派遣の担当機関「Working on Fire」の言い分。南ア労働者の特性(?)を考慮しての、親心らしい。契約書には「50ドルのうち現地支給は15ドル」と明記してあり、同様の条件でこれまでも海外派遣し問題がなかったという。消防士たちはちゃんと契約書を読んでいなかったのだ。

一方、今回のストに仰天したのは、南ア消防士1人当たりに1日170ドル払っているアルバータ州政府。同州で森林火災に従事する消防士の時給は平均30ドル、新米でも20ドル。また、同州の最低賃金は時給11ドル。日給170ドル支給していると思っていたのに、1日50ドルでは最低賃金を大きく下回る。レイチェル・ノトリー(Rachel Notley)州知事曰く、「労働法に違反する賃金で働いてもらうわけにはいかない」。(1日50ドルは給料以外の特別手当だから、知事の懸念は的を外れているという議論もある。)


せっかく到着したのに… (GroundUp

今回消防士を派遣した「Working on Fire」は、スキルのない失業者を訓練しようという、南ア政府の雇用創出プロジェクトの一環。つまり、今回派遣された消防士たちは、元々手に職のない失業者だったのを、政府に給料をもらいながら職業訓練を受けた後、消防士として平均日給7ドルを得て働いているのだ。失業時代と比べると、生活は大改善されている。しかも、カナダへの派遣中、特別手当を含めた日給は57ドル、通常の8倍にもなる。なのに、支払方法が不満でストに突入とは、あまりにも目先に捕らわれている。働かない間、当然特別手当は支給されないだろうし、違法スト中は無給だからだ。加えて、「消防士」としての誇りも責任感も感じられない。我が家が火事になったら、来て欲しくない人ばかりだ。

もちろん、アルバータ州が払った170ドルのうち、50ドルが消防士に支払われるとして、残りの120ドルは「Working on Fire」の懐に入るわけで、あまりにも多額のピンハネではないかという疑問はある。まあ、経費も色々かかっているのだろうけど。

ともあれ、鳴り物入りでカナダ入りした南ア消防士たちは、救援活動にかじる程度携わっただけで、職場を放棄しストに突入して使いものにならなくなり、数日後に帰国するはめになる。消防士たちは多額の特別手当が手に入らなくなり、アルバータ州は301人分の旅費・ホテル代・食費が無駄な出費となり、南ア政府は面目を失った。差し引きゼロの「ゼロサム」(zero sum)、関係者全員が満足する「ウィン・ウィン」(win-win)という表現はよく耳にするけど、今回は全員が損をする「ルーズ・ルーズ」(lose-lose)である。

(参考資料:"SA firefighters in Canada: here are the facts"、"Canadian premier ‘disturbed’ by how little SA firefighters were paid" など)

【関連HP】
Working on Fire

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